朱の鬼神
 1.白神九十九 その4 十夜さん
  

 


 街の灯りが見える。
 あの後、任意同行で海鳴署まで出向いた私たちは、それまでの経緯を一通り話し、全員が取り調べを終えて一息ついていた。
 もっとも、とりあえず一段落するまでには警察署の窓から見える空は夜の幕を落としてからなお、さらに時間が経過している。
 聞けば犯人である男は完全に否認するか黙秘、もしくは癇癪を起こすといった状態でロクに取調べが出来ないとの有様だったという。
 それに時間が時間だったとはいえ、人気がまばらだった付近での聞き込みを含めてこちらの証言が頼りなだけに、状況説明においては再三確認を取られたのが一番時間を食った原因だった。
 さすがにあの男を投げ飛ばした事をうまく誤魔化す事には難儀したものだが、それは愛さんの車でここまでくる間に『単に相手がバランスを崩して転倒した』という具合に口裏を合わせてくれるよう、事前にみんなへお願いはしている。
 あの店員の二人は私達三人とは別に取調べを受けていたが、きっとうまくやってくれたことだろう。

「遅くまですみません。学生さんにまでこんな時間までお付き合い願ってしまって」

 その言葉から来るせめてものお詫びか、取調室前にある応接用ソファーへ腰掛けている一同にコーヒーを振舞いながらその刑事は言う。
 三十は超えたと思える容姿ににこやかな表情を浮かべているこの人が先ほど私達への取調べを行っており、その中で『吉野』と名乗っていた。

「それで、私たちはもう帰宅しても構わないでしょうか?」
「ええ。それと何かの際にご足労願うかもしれませんが、その時はまたご協力して下さい」
「それはもちろん。ただ、出来うる限り私の方でお話を伺わせて頂きます」
「いや、こちらも仕事でしてね。何かと不快な思いをさせて申し訳ない」

 それとなく察してくれたか、吉野警部は苦笑いを浮かべながらそう答える。
 そして警部としての面子抜きで率直に腰を折った。

「本当ならあなた方への取調べはほどほどに終えているべきでしょうが、こちらも事情がありましてね。こと細かく書類を纏めて置かなくてはならなかったもので」

 と、警部は軽く辺りを見渡す。
 署内に入った時点でそれとなく気づいていたが、今でも周辺に人気がない。
 実際、取調べを行ったのもその時刑事課にいた吉野警部を入れて三人のみだった。
 さすがに他の課へ目を通していなかったとはいえ、それでも今は一体どの程度署内に詰めているのかと考えたくもなる。
 後の二人の刑事も再度男への取調べの為に出払っているし、こんな状況で110番通報が入ったら手が回りきれるのだろうか。
 警察署ながら無用心と言えばそうなのだが、大方の理由には予想が付くだけにその事をあえてこの場で口にする必要もない。

「刑事さんもお疲れ様です。これからもお仕事頑張って下さい」
「そう言って頂けると、我々としても働き甲斐がありますよ」
「…それじゃあ皆さん。お家に帰りましょうか」
「学生に夜道を一人歩きさせるのもなんですし、こちらでお送りしましょう」
「いえ、もともと私の家へ夕食に誘っていましたから、お気持ちだけで十分ですから」
「そうでしたか、これはとんだ失礼を。ではもうお帰り頂いて結構ですので」

 やっと安堵したか、それぞれの口から安堵のため息が漏れるのが聞かれる。
 先んじて私がソファーから立ち上がると、他の面々も続いて長いこと据わり続けていた腰を持ち上げた。

「それでは失礼します」
「お邪魔しました」
「もし今度がありましたら、その時にはウチの特注カツ丼でもご馳走しましょう」
「それが取調室でのことにならないよう。切に願っておきますよ」

 一同が重く口を噤んで歩く中、出口へ差し掛かったところで吉野警部からそう言葉を投げかけられた。
 しかし気を使ってくれたにしても、暗い空気を振り払うにしては笑えないジョークだ。

「だいぶ遅くなっちゃいましたし、急いで寮へ戻りましょうか」
「うちももうくたくたやぁ」
「はー、ずっと息が詰まりそうでした」

 口々に溜息を漏らす一同の表情には疲労が見られる。
 無理もない。警察の厄介になることなど、普通に暮らしていれば早々あることなどないのだから。

「井上はこういうの初めてだったっけ?」
「あ、はい。……やっぱり警察のお世話にはならないに越したことないですよね」
「まあそう言うな。向こうだって仕事柄というのもあるんだし」

 と、ここでもまだ自己紹介していなかったな。
 などと心の中で溜息を付きつつ、例の店員の二人へと向いた。

「そういえばごたごたして自己紹介していませんでしたね。私は『白神九十九』といいます。この度、転勤でこちらに越してきたばかりですので、よろしくお願いしますね」
「その矢先に事件とは不運でしたね…ああ、私は『御剣一角(いづみ)』です。私立風芽丘の三年で、こっちはその一つ後輩」
「初めまして。『井上ななか』って言います。それと公園ではどうもありがとうございました!」
「いえいえ。偶然とはいえ、近くを通りかかっていて本当によかったですよ。そのお顔が傷物にならなくて幸いです」
「あ、は〜どうも…」
「……お兄さん。案外女たらしなんやなー」
「どうしてそうなるんですか?」

 よくわからないが、なぜか椎名さんから疑惑に満ちた眼差しを向けられてしまう。
 井上さんもなんだか顔が赤いし…謎だ。

「あかん。自覚ナッシングやわ」
「ですから…」

 ピリリリリ!ピリリリリ!

 と、横から口を挟むかのように胸元の携帯が無機質な着信音を奏で始めた事で言葉を遮られた。
 呆れ交じりに携帯を取り出すが、淡く光るディプレイへ表示される送信主を見て僅かに閉口する。

「…先に車の方へ行っていただけます?少しだけ長話になりそうなので」
「あ、はい。わかりました。でもあまり遅くならないようにお願いしますね」
「はらぺこさんが寮のも含めて、ここにもぎょうさんおるんやけんな」
「すみません。出来るだけ手短で済む様努力します」
「それでは皆さん。行きましょうか」
『はーい』

 そう言って去ってゆく一同と逆方向へ歩みながら、電話に出ることで今だ鳴り続けていた着信音を止める。

「もしも…」
『あ、紅――――っ!何も言わずに行っちゃうなんてひどーい!!』

 が、あ…今、耳がキーンって……。

『ねぇ、紅。紅、こーう!』

 とりあえずおかしくなっている耳を押さえつつ、逆の耳に受話器を当てると大きく息を吸い込む。

「電話口で大声で怒鳴る奴があるか、この大馬鹿ぁっ〜!」
『うにゃうっ!』

 ドタッ。と音が続いた辺り、おそらく電話の向こうではその電話の主―――アーフィーが尻餅をついているのだろう。
 しかし送信主には確かに本部の通信室からとなっている。
 てっきり今後の指示や情報があるのかと思って出てみればこの有様。
 大方無断で借用したか、はたまた無理を言って強引に借用したか。どの道私的流用以外の何者でもない。

『あー、もしもし。紅さん?その、ご無事ですか?』

 と、次に聞こえてきたのは本来の通信の主、オペレーターの声。
 ちなみにこの人も人をそんなあだ名で呼ぶ一人。
 アーフィーと入れ替わり的に電話に出た辺り、どうやら後者であることが半確定の様子だな。

「まだ耳鳴りしていますけど、ひとまずは」
『すみません。いくつか連絡事項があったのですが、そこにちょうど彼女が戻ってきたもので…』
「だったらついでに話をさせてくれ、と。困ったものですね」
『本当なら罰則に当たるんでしょうけど、彼女の事ですから大目に見ますからしっかりしてくださいね。お父さん』
「う、ぐ……そうは言われましてもね…」

 ―――お父さんといっても元々、アーフィーとは血の繋がりの無い仲だ。
 それが遡ること10年以上も昔に出会い、その後のとある事件を以って私が引き取った。
 それからずっと連れ立ってきたとはいえ子育てはおろか、女性との関わりなどロクに持たなかった一人身。
 当時は……いや、今でも変わらずその生活は何かと大変である。

「あんなんでも……その、本気で最初の頃に比べたらだいぶ躾けられた方、なんですが」
『あ、いえ。そう落ち込まれましても』
「慎ましさとは無縁とはいえ、それでもまだマシ……マシな方…」
『……ええっと、仕事の話に戻りましょうか?』

 苦笑いの混じったその声に、ネガティブに入りかけていた思考を現実へと引き戻した。
 駄目だな。どうしてもアーフィーの教育の事となるとつい暗い方へと自分の世界に入ってしまいそうになる。

「…そうですね。それで用件は?」
『ちょっと待って下さい』

 そうして声が遠ざかるが、それでもある程度は向こう側のやり取りが聞き取れ……そしてその情景は想像に難く無い内容だった。

『―――こら、アーフィー。今仕事のお話している最中だから、私的なことは後』
『だって私も話ししたいしたいした〜い〜!』
『後で好きなだけさせてあげるから、我慢していて』
『やーだー!やだやだや〜だ〜!』
『みんな、何とかおとなしくさせておいて!』
『それは無理!』

 あ、一同合唱。
 通信室のみなさん、私の躾が至らなくてごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。
 そうして暫くの間は阿鼻叫喚とともに聞こえる激しい物音から、深い懺悔の想いを幾度と無く心に木霊させられた。
 だというのにそれを背に受けながらもオペレーターは電話口に戻り、しかし声色から努めて冷静に話そうと伺える形で報告に入る。
 ……さすがはこの業界で生きている人だ。

『警察側の人事が完了したのでご報告をします』

 その言葉に後ろへと振り返ってみた。
 みんなは既に階下へと降りて行き、既に廊下は人気のない冷たい空気に満ちている。
 人手が出払っている理由はやはりこれか。
 実質な戦闘はこちらで足りるが、やはり警邏と捜査は地元の警察に協力を仰ぐのが一番の方法だ。

「詳細を聞かせてもらえますか?」
『想定の範囲内でしたが、やはり警察側は縄張り意識的なものがあってか、今回の件に関して全権を一任するよう要求してきました』
「こちらにはこちらなりのやり方があるというのに…少なくともああいう手合はこちらの方がはるかに経験はあると分かっているはずでしょう?」
『それでも日本の法的機関。他所から来た者に好きにはさせたくないのでしょう』
「前にもこの地で連中絡みの事件があったというのに? 日本の警察ではまともに発砲することを許可されていないというのに、どうやって…」

 ある筋で耳にした話だが、どうもこの国の警官はいかなる理由があるにせよ発砲をした際には、大学生の卒論並の厚みのある始末書などの書類を書かないとならないらしい。
 そうでなくとも警告、相手がそれに応じない場合は威嚇射撃、手順として直接狙いを定めることが許されるのはそれからなので、相手が相手ならその間に一体何度殺されるか知れたものでない。
 警官が発砲したことが問題だとして、メディアからの批判に晒されるという事情もあるのだろうが、今回のように相手が『本職』だと想定した場合、文字通り幾つ屍が転がるか分かったものではない。
 そして、転がるのが警官のモノだけとは限らないのだ。

『隊長もその事で何度も協議を重ねたのですが……指揮権云々の前に捜査経過は追って報告すると言うだけで、それ以上の事に関してはあまり聞く耳を持たなかった様子です』
「全面的な協力体制はしけない。か」
『こちらの誠意として出来うる限りの資料は提供したそうですが、なおのこと公的機関でもない海外の一組織に協力を仰ぐことは出来ない。と』

 警防隊は国籍人種という範疇以上に、いわゆる『人外』と呼ばれる人々へのワクさえ設けることなく実力主義で雇用と上下関係が成り立っている。
 それ故によい方向にも、悪い方向においても一癖もふた癖もある人材ばかりだというのは否めないが…

「それで、我々にはただ指をくわえて黙っていろと?」
『警察庁の言い分としてはそうなります』

 ……ああ、なる。

「海鳴署の方の言い分は?」
『本店の言葉には逆らえない。というのが表向きで、別件の捜査という名目で少人数を割り当てるそうです。ただ、警察庁からテロ対策として大人数の出向が予定されているのであくまでも秘密裏にとのことです』
「それを窓口の代わりに、か…案外話の通じる人もいるんだなぁ」
『聞くところによると、そちらには退魔師とかが警察公認でいるそうです』
「とかって……まあいいや。私が自分の判断で行動させてもらえるなら上出来。それで大まかな作戦概要の理解は得られているんだよね?」

 今回の目的はあくまでターゲットとされているHGS患者、ならびに関係者各位の生活の安全を秘密裏に確保すること。
 もちろん最悪の場合として人質といった手段を取らせない為でもあるが、件の関係者としてこっちにいる副長の知り合いの内何人かはこういった事があれば首を突っ込むどころか、手を貸すとまで言いかねないのだとか。
 もとよりこういう裏世界の話だ。
 こちらが死線を交えた仕事をする上で、そういう人達に現場にいてもらっては困ることも少なくない。
 なにより副長も内心、身内がその事で危険に晒されるのを危惧していたことだろう。
 そのことで作戦立案に口を挟んだかどうかは私の知るところではないが、今回のような場合は標的に対して脅しを初めとした明確な行動がまだとられていない分、護衛よりも内々に処理してゆくことを選択することが多い。

 それに日本国内外への窓口全てに隊員が既にいくらか回されている。
 掃討戦を仕掛けるには手勢が足りないが、相手としてもこちらが先立って動いているとあらば人員に配慮せざるをえなくなる筈。
 出入りの時点で捕縛できるようしておけば、海鳴の地のみで工作員達の殲滅を主体に置く必要も余り無いというのが作戦プランを決定付けた要因だ。

『ええ、それも海鳴の署長自ら回答がありましたので。『龍』の捜査に全力を挙げつつも、護衛対象者を含めて関係者各位に不用意な接触は図らない。と』
「なら捜査には大いに頑張って貰うとして、こと戦闘に至ってはこちらがイニシアチブを取れるよう、警察庁とは引き続き交渉と各方面への根回しをお願いします」
『分かりました。そのように伝えておきます』
「私はこのまま任務を継続しますが、その窓口役の人の名前は?」
『秘密捜査として専用に宛がわれたのは三人。内、窓口役は吉野警部との事です』
「…あー、その名前って確か?」

 だとしたら、あの場にいた後の二人もその宛がわれた人員だということか。
 これは憶測程度だが別件で動くならば、と留守番をしておくようにいわれでもしたのだろう。

『はい。それが何か』
「さっき、事件に巻き込まれてその人から取調べを受けたばかりなんです、けど……」
『………』
「加害者側じゃないですからね。本当」

 受話器の向こうから聞こえてきた溜息に、苦笑交じりにそう答えた。
 確かにこれまでこなしてきた任務の最中にトラブルに巻き込まれたことは一つや二つではないのは事実だけど。
 その度に身内の方々よりお節介が過ぎると注意されることも同じ数だけあった気もする。

『向こうはなんと?』
「いや、その辺りを訊ねられたりはしませんでしたよ。ただ……まさか派遣されたエージェントが暴漢絡みで顔合わせなんてありえないと、たぶん人違いだと思われたんじゃないかなー、なんて」

 今思い返しても取調べ中、それらしき質問といったものは無かった。
 ただ、しきりに首を捻っていたというのは印象に残っていたので、恐らくそうに違いない。
 無理も無い。いくら秘密裏にとはいえ警防隊より紹介も無しに出会うなどと、ありえないとまでは行かなくとも疑問には思いたくもなるだろう。
 書類に書いた住所とかもこっちの物でやっているし、となれば顔写真以外で特定なんて出来ないしな。

『……もう、出歩いてもよろしいのですか?』
「ええ、取調べは既に終えているので」
『フォローはこちらで行っておきます。一連の流れがむしろ幸いした格好となってほしいものですが』
「面目ないです。ああ、この後用事があるのでこの辺でいいですか?」
『分かりました。では明日からは定時報告をお願いします』
「了解です。それでは『紅ーまだ電話切っちゃダメー!』」

 ピッ!

「―――さてと、急いで戻らないとな」

 携帯に表示されているデジタル時計を見れば、電話を取ってからすでに10分あまり。
 簡単な確認事項で3,4分もあれば済むと踏んでいたのだが大分予定の時間をオーバーしている。
 途中で警官に呼び止められないよう、足音の大きさに気を付けつつも急ぎ、階下へと駆け出した。


「お兄さん。レディを待たせるやなんて、あかんでー」

 駐車場に辿り着いての開口一番がこれだった。
 なんというか、自分で『レディ』というか。この人は……

「あー、何と言いますか。言うにやまれぬ事情というものがありまして…」
「せやかて、ウチをこんな寒空の下に置いてけぼりやなんて…うち、もう泣いたるわ」
「まだ残暑の残る最中ですし、寒空と呼ぶには程遠い気温です」
「女四人が夜中に出歩いてるやなんて、変な人に声掛けられてたら知らへんで?」
「いったいどこの世界に警察署の目の前で不埒なことをする輩がいるというんですか…」
「もう、お兄さん。真面目に返したりせずにもう少しボケてくれへんとおもろうないわ」
「私は漫才の相方じゃないんですから……」
「まぁ、その辺で。早く家に帰らないとみんなが大変ですよ」

 言葉を返す毎にだんだんと項垂れてゆく私を見かねてか、愛さんが苦笑交じりに助け舟を出してくれる。

「なんだかんだでこんな時間になってもうて、一番上と一番下からなんや言われそうやなー」
「すみません。うちらがちゃんとしていればこんな事にならずに済んだのに」
「いや、気にせんでもええよ。別に二人が悪いってな訳じゃあらへんのやし」
「そうですよ。元はといえば奴を追い返すに留めた私にも責任の一端はありますから」
「ですけど…!」
「だから、お互いに気にせずにおきましょう? 自分の責任だと語ってゆけば余計重くなるだけですから」
「は……はい」
「あのー、白神さんって愛さん達とはどういったご関係なんですか?」

 ………うっ。そういえばまだ成り行きを説明していなかった。
 署へと向かう車内ではこの井上さんの気を落ち着かせるのと、口裏合わせでそんな余裕はなかったんだっけ。
 とはいえ、このままだとまたあんな恥ずかしい話を人に聞かせなくてはならなくなるのか?

「あー、それはな?この人がぎょーさんの…」
「だあぁぁっ!何ばらそうとしているんです!」
「別に減るものとあらへんやないの」
「私の人間性が損なわれますって!」
「大丈夫や。うちらはお兄さんのこと、見捨てたりはせえへんからなぁ」
「何をしみじみに言っているんだか……っ!」

 肩に手を置いて涙を拭う仕草をしながら言う椎名さんを小突きたい衝動を必死に堪える。
 もっとも、既に肩ほどの高さまで拳は出掛かっているのだが。

「でもな兄さん。可哀想な事言うようやけど」
「……ここまできて、一体何なのです」
「こんな時間になった以上、ウチの寮の面々にはシラを切り通されへんでー」


 ぐはぁっ………


「あ、灰になっちゃってる。そんなに言いたくなかったことなんですか?」
「男の沽券って奴やねー。ウチとしては別にそんなん気にせんでもええと思うんやけど」
「えっと…どうしましょう」
「このまま車に乗せたろうか?」
「いいんでしょうかねー。ちょっと詰めるのが大変かも」

 その後色々と車内で何か話しかけられていたような気もしたが、暫くして復活できるまではただ耳を筒抜けるだけであった。


その5へ

         


 あとがき
  腹を掻っ捌いてお詫びをば(挨拶
 未だに本調子を取り戻せず、遅々として原稿の進まない日々を過ごしております。
 ……書かないんじゃないぞー、書けないだけなんだぞー(泣
 来月中にまた一本、仕上がれば言いなぁと残しつつ退散。

  
一話 その3

一話 その5

目次