夢。
 夢を見ている。
 暖かい光の中で、ひとりで突っ立ってる夢だ。
 
 
 
 
 またあそこなのか?
 今度はいったい誰だ? もう誰が出て来ても驚かないぞ。
 
「耕一」
「耕一さん」
 
 ちゃぶ台に向かい合って座っているのは俺の…親父と母さん。
 
「元気にやってたか」
「ご飯はちゃんと食べてますか」
 
 俺は目の前の情景が涙でかすんでいくのを感じた。
 
「耕一…うまいことやったな」
 
 …えっ?
 
「孫は女の子がいいぞ」
 
 …へっ?
 
「二人でも三人でも多い方がいいな」
 
 …はっ?
 
「あなた。気が早いですよ。まずは式を挙げてからです」
「ああ、そうか。そうだな。…で、いつ式をするんだ?」
 
 何の話?
 
「とぼけるな。楓の事だ」
 
 親父…
 
「全部わかっとる。俺達はいつでもおまえを見守っていたからな」
「そうですよ、耕一さん」
 
 全部わかってるって…
 
「だがな…」
「子供に手を出すのはいかんぞ」
 
 見てたのか!?
 
「見守っていると言っただろ」
 
 プライバシーはないのかよっ!
 
「死人に言うな」
 
 うがっ…
 俺は頭を抱えた。全部見られてやんの。
 
「耕一さん」
 
 …母さん。
 
「楓さんを、そしてみんなを、よろしく頼みますよ」
 
 …ああ。
 
「しあわせになってくださいね」
 
 …まかせろよ、母さん。
 
「耕一」
 
 なんだよ親父。
 
「姉妹どんぶりはするなよ」
 
 親父っ!
 
「はっはっは…」
 
 親父も母さんも笑いながら消えていった。
 
 

進む

戻る

目次