夢。
夢を見ている。
白いもやの中で、ひとりで突っ立っている夢だ。
ここはどこだ? もしかしてあの世なのか?
その時、もやの中に一人の影が浮かび上がる。
「ひさしぶりじゃな、耕一」
遠い記憶の中にその姿はあった。
白いもやの中に立っていたのは柏木耕平。俺の祖父(じい)さんだ。
でも何故、越中ふんどし一丁なんだ?
「大きくなったな」
祖父さん、どうしてここに?
「おまえと勝負しにきたのじゃよ」
勝負って?
「大人になったおまえが鬼を御しきれたのかどうかを試すためにな」
俺は大丈夫だよ。
「さあ、勝負じゃ! 耕一」
俺の言う事なんて聞いちゃいない祖父さんは、やがてふんどしをほどき始めた。
「我が鬼に勝てるか、耕一。勝てたらおまえは一人前じゃ!」
全裸になった祖父さんの股間にはそれは立派な鬼が…って、それが勝負かい!
「ぬぬぬ、耕一。それがおまえの鬼か?」
いつの間にか裸の俺。風呂入ってたんだから当たり前か。
「儂の負けじゃ。おまえは立派に鬼を御しておる。儂がおまえに教えることは何もない」
勝手に納得しないでくれよ。
「さらばじゃ、耕一……」
そう言うと、祖父さんはもやの中に消えていった。
「なんだったんだ、一体……」
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