『月の裏側』しゃむてぃるさん
 

扉前。(『志貴 強制3択! どれももれなくデットエンド?』の場面)
 

「はー、これは相当の混迷具合ですねー」

 と、琥珀は傍観者専用席……すなわち、居間の扉前に居た。
 当然ながら戸は僅かに開けられていて、そこからだと暖炉前の志貴達が一望出来るのも、またお約束。

「でも、姉さん」

 翡翠も琥珀の傍らに居た。
 中の様子を見てはいないが、聞いてないふりをしつつ聞いてたのも、また必然。

「なあに、翡翠ちゃん」
「混迷にしたのは姉さんだと思う」
「えー? そうかなー」
「だって、秋葉様用の衣装を作っておいたり、今日は暖炉を使わなかったりしたのは姉さんだし」

 ちなみに、衣装の作成は1週間前より取りかかってあり、煙突内の掃除を行なったのは昨日である。

「ふふふー、そういう翡翠ちゃんも、ねーっ」
「わ、私は別に……」
「そうかなー。では、何故サンタさん衣装なのかなー?」

 翡翠の服はやはり琥珀が用意したもの。琥珀とおそろいになっている。
 という訳で、二人ともやはりサンタ風の装いである。
 差異はというと、琥珀はスリット入りのチャイナドレス風スカート、翡翠はプリーツ入りといったところだろう。

「これは……いつものメイド服は着ていたの以外は全部洗濯中だし、着ていたのをずっと着ているわけには……」
「はいはい、そういうことにしておきましょうねー」
「…………」

 翡翠がいくら反論しようとしても、着替えが無くとも「そのままメイド服を着ておく」という選択肢もあった訳であるから、明らかに琥珀の勝利。

「でも、これでは志貴様が……」

 なんとか話題をそらそうという訳でもないが、志貴がいよいよ壁際に追い詰められ後が無くなっていた。
 じりじりと迫る3人からは、洒落だけでない気迫がここまで届いて来る。

「うん、そろそろ入らないとねー。 志貴さんもいよいよ追い詰められてきたみたいだし」
「………………」

 わざわざそれまで待ったのか、と思ったが、聞くのはやめた。

「あ、そうそう、翡翠ちゃん。部屋に入ってからだけど、お料理運ぶのを手伝ってくれる?」
「いいけど……いつもは姉さんだけでやるのに」
「うん、ちょっと今日は沢山作っておいたから。お酒もいろいろあるし」
「お酒?」
「あ、そうそう。秋葉様から明日は食事以外のお仕事しなくても良いって許可貰っているから」
「許可?」

 酒とか許可というのは、通常の遠野家においてはまず無いもの。
 更にどこから出したのか、何時の間にかマイクを手にしている琥珀。
 全てを察した翡翠であったが、琥珀の笑みの前には、最早ただ事の成り行きを見るだけしか無かったのである。
 
「志貴さんも秋葉さまも明日はお休みだし、今宵は遅くなりそうだよねー」

 琥珀が本当に嬉しそうな笑みで扉を開け「サンタメイドさん’sでーす♪」と二人連れて入り。
 志貴の視線が自らに注がれ、赤面を堪えるので精一杯の中にも、翡翠はこう思った。

「……策士」
 

やっぱり戻ります