最果ての地 裏口20000ヒット記念 パロディSS
必殺! 仕事鬼 しゃむてぃるさん

  時は太平の世、所は大江戸。
 太平の世でも悪いやつってぇのは、なかなかいなくならねぇもので……
 そういうやつを闇から闇へと葬る仕事を請け負う奴らがいた。その名を『仕事鬼』
 奴らが誰なのか、それを知ってるのは奴らと奴らに始末された悪人だけさ。
 今夜も奴らは仕事してるのかもしれねぇ。なにせ悪いヤツらには事欠かねぇだろうしな。
 そう、あんたがこれを読んでいる今もな……
 
 

「耕一、なにぐうたらしてんだよ」
「ああ……梓……と楓ちゃんと初音ちゃん」

 休日の昼下がり、惰眠を貪っていた俺は梓にたたき起こされた。

「『ああ……梓』じゃないって。すこしは家のこと手伝ったらどうなんだ?」
「おまえなぁ、疲労している俺の折角の休日を堪能させよう。という心くばりは無いのか?」
「なぁに言ってんだよ、この昼行灯が」
「昼行灯って……お前なぁ」
「梓おねえちゃん、それは言いすぎだよ」
「梓姉さん……言葉が過ぎます」

 楓ちゃん、初音ちゃん。弁護してくれるのは嬉しい。
 だけどぐうたらだってことは否定しないんだね。(泣)

「だ……だってさ」

 形成不利とみた梓は理由説明(いいわけ)モードに入る。

「耕一は一応武士のはしくれなんだし、それにこの家の婿養子なんだし……」

 そうだ、俺こと柏木耕一は武士で町の番屋に勤める役人だ。
 またこの柏木家に婿養子に入った身分でもある、とはいえ元は柏木家のいとこなのだが。
 なんだか『だいがくせい』という言葉が頭の中にあるが、あまり気にしないでおこう。

「だっ、だから…」
「もうちょっと働いて貰わないと、ですね」
「どわぁっ! 千鶴さん?」
「ち、千鶴姉…………どこから沸いてきたんだ?」
「千鶴お姉ちゃん……」
「千鶴姉さん……唐突すぎます」

 千鶴さんは俺と梓の中間点に正座してお茶をすすっている……本当にいつの間に?

「耕一さん」
「はっ…はい」

 驚愕と疑惑の視線を向ける皆をさしおき、千鶴さんは『それは秘密ですぅ』と話を進める。

「この柏木家は今こそこのお屋敷だけですが、かつては北陸は天城家の一の家臣でありました。 徳川家康公に呼ばれ、江戸に移っても代々誇りと名誉を重んじ、士道にも秀でていたのです。 いまでこそこのなりですが、だからこそ耕一さんには…」
「あの、千鶴お姉ちゃん?」
「初音、姉さんはいま耕一さんに大事な話をしているのよ」
「その耕一だけど……もういないよ」
「えっ、本当! いつの間に?」

 梓の言葉通り、耕一の姿はすでに柏木邸から消えていた。

「『あ、仕事仲間に呼ばれてました』だってさ」
「しょうがないね、耕一お兄ちゃんは」
「……もう、知りません」

 そのとき楓は玄関にいた。

(よかった……耕一さんを上手く脱出させることができた)
 
 

 そのころ、柏木邸よりほどなく近い大通り……
 商店や飲み屋などが並び立ち、人々の生気で活気溢れている。
 そこをぺったらぺったらと歩く耕一。

「はぁやれやれ、千鶴さんのお説教は長くて参る。三十六計逃げるが勝ちってね」
「柏木殿」
「え、ああ、これは柳川様」

 耕一が振り向くと同じ番屋の柳川と長瀬がいた。
 柳川は若いながらも圧倒的な行動力と検挙件数で耕一の上司となっていた。
 ただ、周囲との協調を望まない節があり、いわゆる一匹狼的な雰囲気を持っている。
 長瀬は飄々とした節で年は取っているものの、いまだ耕一達と同じ役職である。
 これは長瀬自身が明らかに出世を望んでいないせいであろう。

「『これは柳川様』ではない。事件だ」
「事件ですか、しかしあいにくと俺は……」
「川原に死体があがった。現場はすぐ近くだ、ついてこい」

 それだけ言って柳川は川の方へ歩いていく。
 すれ違いざま長瀬が耕一に声をかける。

「はははっ、柏木殿。ま、運が悪かったと思って諦めることだな」
「長瀬殿……まぁしかたがないです。で、現場はどこですか?」
 
 

 江戸は水路が非常に発達した都市でもある。
 その内一つの街中を流れるある川。その川原に人だかりが出来ていた。
 その中心にはゴザをかけられた遺体が一つと耕一達がいた。
 遺体は男性で40前後、町人風で中肉中背と外見に特段特徴的なものは無い。

「ふぅむ……これは……」
「なにか分かったのでしょうか? 柳川様」
「自殺だな」
「はぁ、これはどうしてですかな?」

 長瀬は相変わらずのとぼけた口調で話す。
 知らなくて聞いているのか、知っていて聞いているのかも曖昧な印象を与える。

「長瀬殿、これは明らかな溺死だ」

 確かに特段外傷も無く、死因は恐らく溺死であろう。

(だが、自殺と断定するには早いと思うが)

 耕一は疑念を持った。だがどちらにしても調査を行わなければ断定できない、と思いなおす。

「全く……日頃の勤務態度が手に取れるな」
「いやぁ、すいません」
「まぁ柳川様、とりあえずの調べが済んだのであれば遺体を運び…」
「お父さん!」

 耕一の言葉をさえぎりるように一人の娘が人垣から飛び出してきた。

「ああ、ちょっとすまないねぇ」

 長瀬は父の遺体に駆け寄る娘に立ちふさがる。
 柳川は既に娘の側面に移動しており、娘を包囲する。

「な……なにか…用ですか」
「それはこっちが聞きたいことでね……キミ、名は?」

 娘はこみ上げてくる涙をこらえながら答えた。

「……神岸…あかりです」
 
 

 所は移って耕一たちも日頃勤める番屋、耕一たちはそこに戻っていた。
 神岸あかりとその父の遺体はそこに移っていた。
 この事件を耕一と長瀬が担当することになったからである。むろん決めたのは柳川だ。
 ただ、柳川は元々最近江戸に流通しているという噂の新種の麻薬の取り締まりを行っていた為、
 そちらの業務に戻り今はここにはいない。

 俺達はとりあえず、あかりちゃんに事情を聞いてみる。
 とはいえ、俺は記録係で聞くのは長瀬殿なのだが。

「で、神岸さん。あなたは父親が自殺などやるはずがない、というわけですなぁ」
「そうです」
「なるほど。では、何故昨日は遅くなると知っていたのですか?」
「なぜって……昨日は遅くなるとはいっていたのですけど……」

 長瀬殿は相変わらず遠慮が無いな。
 まぁ、被害者の近い人物を疑うのは捜査の常道であるから、理解は出来るのだが。
 とはいえ、あかりちゃんはまた泣き出しそうだし、とりあえず助け舟をだすか……

「長瀬殿、お調べはそのくらいに…」
「あかりぃっ!」

 突然番屋に駆け込んできたのは、年の頃は16,7くらい、だが精悍な顔つきの青年だ。

「あ……浩之ちゃん」
「あかり、親父さんが……って本当だったのか」
「うん、ごめんね。浩之ちゃん」
「ばか、なんで俺にあやまるんだよ」
「だって……」
「あーちょっと済まないねぇ」

 そういって長瀬殿は二人の間に割って入る。本当にでりかしぃのかけらも無い人だ。
 けっこう良い雰囲気だったのに、気付かなかったわけではないだろうが。

「キミ、名前は?」
「……藤田浩之っす」
「神岸さんとお知り合いのようだが?」
「幼なじみで……それだけっす」

 それだけと言っているが、少なくともあかりちゃんの様子は今までと一転している。
 今までは精神的に追い詰められていたのだが、一気に救われたような表情に変わった。
 単なる幼なじみ以上の感情があるように見えるな。
 浩之くんの方はいかにも文句のありそうな顔で長瀬殿をにらんでいる。

 そんな二人を数度交互に見て、長瀬殿は「ふぅむ」と頭をかき、

「君達、とりあえず今日は帰って良いぞ」

 とりあえず……ね、また次があるってことだな。
 精神的にこれ以上追い詰められないから、緊張と弛緩でボロを待つ手に切り替えたのだろう。

「浩之ちゃん、帰ろう?」
「……ああ」

 藤田君はなにか言いたげだったが、あかりちゃんに引っぱられるように去っていった。
 いまの経緯にちょっと不満だった俺は長瀬殿に軽く抗議の意思をこめ、話しかける。

「長瀬殿……あの娘を疑っておられるのですか?」
「『全てを疑え』捜査の常道だ」
「しかし……」
「ま、結構近いところになにかあるものだ。他に手がかりが無いしな」
「だからといってですね、まだ若い娘を…」
「若かろうが娘だろうが関係ない。俺はこの線で調べる。柏木殿は他の線を当たられよ」

 そういって番屋の奥へ入っていった。

「他の線……ね。文句があるなら立証しろってことだな。言われなくとも」

 そう決意した俺は早速聞き込みの為に町へ繰り出した。
 
 

 時は移ってその日の深夜、神岸家……
 あかりの父親の葬式が密やかに行われていた。
 来訪客ももう無く母親は心労もあり休んでいたが、浩之とあかりはまだ起きていた。

「ありがとう、浩之ちゃん」
「だから、なんで俺に言うんだよ」
「うん、お葬式の準備とかいろいろやってくれたし」
「べつに……たいした事じゃねぇよ」
「ううん、お昼の時も本当に嬉しかったんだよ……」

 あかりは泣きはらした目を潤ませ話し続ける。

「いつでも……本当に、私が困ったときにいてくれて……本当にいままで……」

 ちっ……この雰囲気は苦手だ。なんだか照れくさいのと、あかりがなんだか……

「あかり、早く休めよ」
「えっ? あっ、うん。ごめんね浩之ちゃん、こんな遅くまで……」
「ばぁか。お前の方が大変なんだから、いいから寝ろっての」
「うん……」

 さらに目を潤ませ、頬を赤らめて笑みで答えるあかり。
 だから本当にこいつは……しょうがねぇな、ったく。

「俺、帰るからな。ちゃんと休むんだぞ」
「うん……ありがとう」

 そういって外にでる俺。
 その俺の心の中に一つの決心があった。

「さて、今日はゆっくり休むか。明日から大変だからな。あかりの親父を殺した犯人……待ってろよ」
 
 

 同じ夜、呉服問屋 最果屋の屋敷。
 その屋敷に数ある部屋の一つでうごめく影二つ……

「昨日の夜はやれやれでしたな、まったくお手汚しさせてしまいまして」

 いまのセリフは最果屋店主 吉川である。

「ふっ、正直にいえばよかろう最果屋。いらぬ手数料を払ってしまった、とな」

 そう言った者の顔はちょうど見えない。姿から武士であることは推測される。

「いえいえ、人一人始末していただいたのですから、当然です」
「始末したのはお前のところの用心棒なのだからな。私は事後の処理しかしておらぬ」
「それは先生がいてくださるから始末できたのですよ。しかし、まぁあの男も不運でしたな」
「まったくだな」

 言葉こそ哀れむようだがその顔には一片の慈愛も無い。
 互いに杯の酒を飲み下し、さらに話を続ける。

「しかし元はといえば最果屋、お前が裏口でご禁制の麻薬を運び入れていたからであろう?」
「ええ、まぁあんな時間に裏道を人が通るとは……」
「だからといって、用心棒に殺させずとも良かろう」
「なにをおっしゃいますやら。そのおかげで金と名誉を得ようというお方が……」
「ふん、まぁな。この新種の麻薬の中毒性と効果は高いからな」

 そういって小箱を開け、数袋はいった小袋の内一つをつまみ出す。

「はい、いままでのとは一味違いますからな。なにやら『えいえんのせかい』が見えるそうで」
「そのうち『えいえんのせかい』にイッて、戻って来れなくなるがな」

 くっくっくっと笑う最果屋と武士。
 その部屋の廊下に影が一つ、すっ……と現れた。

「旦那様」
「ん、お前か。入れ」
「失礼します」

 そういって入ってきたのは最果屋の用心棒である舶来のからくり侍女、瀬理緒である。
 とはいえ思考回路からいじってあるいわば海賊版ではあるが。
 改造は「主人の命令に絶対服従」「主人以外は傷つけてもよい」とされている犯罪目的専用型である。 
 吉川はさけずむ目で瀬理緒を一瞥し、この男にとっては単なる便利な道具に過ぎないこの用心棒に話す。

「例のヤツの遺体が上がったそうだ」
「はい」
「捜査に当たっているのは昼行灯で有名なヤツらだ。自殺で片付くだろう」

 その言葉に意図的なものを読み取って、最果屋は邪悪な笑みを浮かべる。

「重ね重ね、先生にはお手間をおかけしますな……くっくっくっ」
 
 

 そうして6日後……

「やれやれ……ここにも手がかりなしか」

 あれから耕一は江戸市内をくまなく探したが捜査に進展はほとんど無かった。
 わかったことといえば、あかりの父は深夜の帰宅途中に殺害されたらしい、ということぐらい。

 長瀬の方もあかりや母親、仕事仲間に事情聴取を数度行ったが、進展は耕一と同じであった。

 柳川は麻薬の取り締まりを行い、場末の売人を2度しょっぴくなど順調な成果を挙げていた。
 ただ『この程度の事件、早く調査を終えよ』と耕一たちのしりを叩くのは忘れなかったが。

「もう夕方だな……番屋によって帰るか。遅くなると梓がうるさいしな」

 そうぼやいている耕一も家族でかこむ毎度の食事を楽しみにしているのは間違いない。
 とはいえ定時に帰ろうとは、昨今のサラリーマンが聞いたら半殺しにされかねない。
 そういった殺意とは無縁の耕一は帰路を急いだ。

 そして耕一が通っていた通りから横に入った小道の奥。
 普段は誰も通らないような裏道であるが、今は3人の人影があった。
 最果て屋店主とその用心棒。そして浩之である。

「なんだねきみは? 最近私のまわりをうろちょろしているみたいだが……」
「うるせぇっ! ちょっと答えろと言ってるだけだ!」
「なんのことだね……」

 見た目どおりの面の皮の厚さをみせる吉川。
 しかし、浩之の切り札はその面の皮を一瞬で吹き飛ばすことになる。
 その切り札は、使い込んだ感のある財布だった。

「このあかりの父親の財布があんたの店の裏口に有ったんだ。1週間前のあの日の次の日にな」
「1週間前だと……くっ、おい」

 余裕を無くした店主は用心棒に一言かける。
 それとほぼ同時に用心棒は浩之の前に立ちふさがった。

「へぇ、図星って訳かい」
「知らんな……だが、商売の邪魔はしないでもらおうか」

 一触触発の緊張が辺りに立ちこめる。しかし……

「おい、藤田くんじゃないか」

 その緊張を吹き飛ばしたのは耕一であった。

「あんたは……あの時に番屋にいた……」
「藤田くん、どうかしたのか?」
「これは旦那」
「ん? ああ、ええと、呉服問屋の……なんだっけ?」
「……最果屋店主 吉川でございます」

 店主は少しムッとした表情をしたが、すぐ表面だけのにこやか顔を作る。

「吉川、なにかあったのか?」
「いえいえ、ちょっとうちの用心棒とぶつかったものですから」
「そうか、まぁ怪我が無くて良かったな」
「ええ、それはもちろんでございます。では失礼します」

 そういって、そさくさと去ろうとする吉川と用心棒。

「ちょっとまちやが…」
「藤田くん、ちょっといいかね?」

 浩之の前に今度は耕一が立ちふさがった。
 その隙に吉川と用心棒の姿は消えていた。

「ちっ…………なんすか?」
「はっはっは、そっけないな」
「俺、急ぎますから……」

 そういって走り去る浩之。
 そうして残されたのは、耕一と……あかりの父親の財布。
 浩之が吉川たちに気を取られたさい、耕一がかすめとったのだ。

「あの娘の……父親の財布、か……」
 
 

 その日の夜、某所。
 その場所は夜とはいえど真っ暗で、天井裏か土蔵の中であろうと思われるが定かではない。
 そのなかに一本のロウソクに照らされた男女数人……

「今回の仕事料だ」

 そういって財布……あかりの父親の財布を開き、銭が数枚だけの中身を机の上に出す。

「……相手は誰ですか?」
「呉服問屋 最果屋店主 吉川とその用心棒、理由は罪もない町民を殺した」
「ワタシの調べではァ、吉川はニュウタイプのマヤクを江戸にテンプラしているらしいネ」
「…………その通りだ。新種の麻薬を江戸に陸揚げしている。そしてもう一人」

 わざわざ言いなおし、今度は自分の財布から一枚の小判を出す。

「…………」
「そうだ、その取締りにあたりながらそいつらに荷担している役人……柳川」
 

 同日同夜、最果屋の屋敷。
 この日も麻薬の売人を摘発した柳川はここで吉川とその用心棒とで酒を飲んでいた。

「いやいや先生、おつかれさまでしたな」
「ふん、末端の売人ごときいくらでも調達できるのだろう?」
「くっくっくっ、まぁそうなのですが……よろしくお願いしますよ?」
「ああ、わかっている。取り締まりすぎないし、お前達まで手は届かないようにしておく」
「はい、でなければ情報をお渡しする意味がありませんからな」
「私からも情報を貰っているではないか……」
「まぁ、お互い様ということで……今回の先生の取り分です」

 そういって小判数枚を渡す。

「金はあまり要らんのだがな」
「いえいえ、先生にはもっと手柄を立て、奉行所のもっと上のほうに行って頂きたく存じます。その際にご入用の時もございますでしょうから」
「そのほうがお前達にとっても利益になるからな」
「そんな、私どもは先生の夢の実現を手助けしているだけです」
「ふん、まあいい。では失礼する」
「では今後ともよろしく」

 柳川はそういって去っていった。

「ふむ、やれやれ。ま、もうしばらくは我慢するか……おい」
「なにかご用でしょうか、旦那様?」
「酒の残りが少ない、もってこい」
「承知いたしました」

 からくり侍女は台所へ酒を取りに部屋の外に出た。
 その途中、庭に面した廊下でぴたりと足を止める。

「そこに隠れている方々、出てきなさい」

 がさがさと茂みを分ける音がして出てきたのは、弓を構えた金髪の娘となにも持ってない赤い眼の娘であった。

「ウラメシヤ〜なのネ」
「あの……こういう時は静かにしたほうがいいと思います」
「漫才師にしては物騒ですね。そのような飛び道具、私にはあたりませんよ」
「そんなの、やってみれば解るネ…………SHOT!」

 気合とともに発射された矢は、完璧に正確に彼女の心臓へ飛んでいく。
 しかし、かりくり侍女は余裕である。

(軌道予測……完了、このくらい軽く……体が動かない……)

 実際動こうとはしていたのだが、なにも持っていない娘の妖術で動けなくなっていたのだ。

(……ぐっ)

 からくり侍女は微動も出来ずに心臓の場所に矢を受け、ゆっくりと崩れ落ちる。

(ありがとう、これで……もう……)

 あたりに静けさが再び訪れる。

「ハンティング、成功ネ!」
「あの、静かに仕事しましょう……」(泣)
 

「ちっ、酒一つ取ってくるにもこんなに時間がかかるとは……やはり使えぬやつめ」

  一方、吉川は残った酒を飲み続けていたが、瀬理緒が戻らない為に酒が切れていた。

「む、冷えてきやがった。厠でもいくか」

  障子を開け廊下に出て、ちょっと離れた厠への廊下を進む吉川。
 そうして厠に入り、用を足す。
 その最中、吉川の頭上にあたる厠の天井に近い梁の上で動く影。
 ……に見えたのは黒髪の上、黒い帽子と全身をおおう黒マントを羽織った少女であった。

「お願いします……」

  少女は何事かつぶやくと、糸の片方を吉川に向かって投げ付ける。
 
すると、糸は意志を持っているが如く吉川の首に絡み付く。

「なんだ?……ぐぉっ…………」

 それと同時に影はふわりと飛び降り、梁を支点にして店主を吊り上げる。
 なぜ明らかに吉川に比べて体重が軽いのに、吊り上げられるのかは気のせいだろう。

「……気のせいではありません」

 カメラ目線で少女は呟く。

「……皆さんが頑張ってくれているのです」

 見える人間には少女を手伝うがごとく糸を引いているいくつかの影が見えた。
 ずざざざざざざざざざざざっ!!(引く作者と編集長)
 ……ま、まぁ閑話休題(このはなしはおいといて)

「む…………ぐぉ……が……」

 首を吊り上げられた吉川は必死にもがく。だが……

「…………」(ピン……)

 張り詰めた糸をしなやかな指でひと弾きすると、そのもがきもぴたりと止まる。

「ありがとうございます……」

 カメラのまき戻しの如く手に戻ってきた糸を懐に収め、その影は闇に溶けていった……
 

 そのころ、最果屋屋敷前の通り……

「あ、これは柳川様」
「なんだ? 柏木殿。貴殿なぜこんな夜中に?」
「いやぁ屋台の飲み屋でグダをまいていたら、遅くなりまして」
「ふん、柏木殿らしいな」
「ははっ。ところで柳川様、怪しい人影を見かけたのですが……」
「なに? 何故すぐに追いかけん」
「いやぁこのなりでして、刀も持ってきておりません」

 そういう耕一は普段着で帯刀していない。
 一方の柳川は制服を着用し、帯刀している。

「ちっ……まぁいい、では案内しろ」
「ははっ、こちらでございます」
 

 そうして入った小路の奥のまた奥……

「柏木殿、本当にこの奥なのか?」
「はい、左様で……」

 しかし、その先は行き止まりである。

「しかし、この先には道が無い」
「いいえありますよ…………地獄へつながっていますがね」
「なっ、貴様っ…」
『斬!』

 驚愕した柳川が耕一の方へ振り向くのと、袈裟がけに斬られるのはほぼ同時であった。

「刀など…持ってなか…ったのに……なぜ……」

 答えを得ぬ間に柳川は地獄へ進んだ。

「鬼の爪……人は斬れないが鬼は斬れる。そういうことだ」
 
 

 柏木邸玄関

「あ……あの、ただいま……」

 まぁさすがにこんな時刻だ。全員寝ているだろうが……

「お・か・え・り・な・さ・い」
「おそかったなぁぁぁ……こういちぃぃぃ」
「どわぁっ……ちっ千鶴さんと梓!」

 玄関を開けるとそこには仁王像の如く千鶴さんと梓が立っていた。

「こんな遅くまでどうされいてたのですか?」(にっこり)
「仕事じゃねぇよなぁ……一度、家に帰ってきたんだろ?」

 千鶴さん、梓……質問じゃないぞ、それ。(汗)
 すでに取りつくしまが無いことを悟った俺は、希望を頼ることにする。

「い……いや、あの、少々事情がありまして……初音ちゃんと楓ちゃんは?」
「初音はもう寝たよ。楓は……」

 そういって梓は自分の後方へ視線をずらす。
 その視線の先、廊下の奥にある部屋の前に楓ちゃんはいた。

(楓ちゃん、助けてくれ)

 希望の一つが閉ざされた俺は残された希望にすがる。
 だが楓ちゃんは姉たちを見て、軽く目を伏せ……

(……あきらめてください)

 と部屋に入っていった。
 この瞬間、俺は未来に希望の光が無くなったことを知るのであった。

「うふふふ、耕一さん。今日こそはと・こ・と・ん、お灸をすえてあげます」
「覚悟はいいなぁぁ、耕一ぃぃぃ……」

 うわぁぁぁぁっ、たすけてくれぇぇ……(泣)

 ……合掌

(完)
 

おまけ(後日談)へ

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