照れ隠し
受信しちゃったあと倒れた茜を、とりあえず自宅に運んだ。
俺のベットに寝かせてしばらくしたので、様子を見にきたのだが……
「……眼、覚めてたか」
「………?」
「倒れたんだよ、あの空き地で」
「……はい」
そう言うと、茜は自分の服が違っていることに気がついたようだ。
びしょ濡れの制服ではなく、パジャマに着替えさせたのだが……
「言っとくが、服を着替えさせたのは…」
ちりちりちりちりちり……
「はぐおぉぉっ、だから俺じゃなくててて」
「…………」(真っ赤)
ちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちり……
『一緒に住んでいるおばさんが着替えさせたんだ。パジャマもその人のだ』
そう説明できるまで数分間、真っ赤になった茜の電波で悶えることになった……
電波と煩悩
茜を一方的にデートに誘い、びしょ濡れで待って、そしてキスをした。
その後、二人とも体が冷え切っていたため、茜の家に行くことになった……
(茜も来てくれたってことは、完全に司とやらのことを吹っ切れたってことだよな……)
茜はコーヒーとクッキーを持ってきてくれた。
いま気がついたのだが、この家には二人っきりのようだ。
(茜と二人っきり……ま、まあとりあえず……)
「いただきます」
「……もしかして緊張していませんか」
「な…なぜ解る?」
「解ります。Hな電波が出ています」
「い、いや、悪かった茜。許してくれ」
「…………嫌です」
ちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちり……
だってしょうがないだろぉぉぉ……
君も受信しているんだよ
茜と山葉堂の新製品『蜂蜜練乳ワッフル』を買って俺の家で食べることにした。
しかし、それは……
「……これ無茶苦茶甘くないか?」
「おいしいです」
「甘党の俺でも、これはキツイと思うが……」
「……おいしいです」
そう言う茜を見ると、さっきまで口を付けていなかったワッフルが消えている。
いつのまに食べたんだ、って柏木4姉妹の3女かぁ!
くどいがなぜ知ってる俺?
どこに爆発物があるのやら
ワッフルを食べた後……
「茜……キスしていいか?」
「嫌です」
「……俺は本当に茜のことが好きだけど」
「…………私もです」
ジリリリリリリリリ……
「あ……っ」
目覚ましが鳴って、気まずい雰囲気は吹っ飛んでしまった。
「……鳴っていますよ。止めましょうか?」
「頼む」
「止まらないんですけど」
「頭にあるボタンを押してみたか」
「押しました」
「調子悪かったからな。貸してくれ」
ボタンを連打したものの止まらない。
「しょうがない、破壊するしかないな。さらばだ目覚まし…」
『ばちばちっ…ぼん……しゅー…』
派手な音を立てて目覚ましは止まった。というより破壊されたようだ。
「え……俺はまだ何もしてないぞ」
と、いうより、やはりこれは……
「止まりました」
にっこり微笑む茜に恐怖を感じた……
行く場所違い
すでに、茜以外の人は自分を他人としてしか認識していない……
そんな中、学校をさぼった茜とデートしているうち、あの空き地にきた……
「この場所には来ることは、もう無いと思っていたのに……」
茜の言葉は俺に向けられたものにも関わらず、非難の意志は無かった。
「この世界は嫌い? この日常はあなたにとって意味の無いものなんですか?」
俺の心に衝撃が走った。
「……どうして」
「あなたも同じだから。この場所で私をおいて消えた司と……一緒なんですね」
「消えた、って…」
「この場所で狂気の扉を開いて、あっちのせかいにイった司と同じ……」
………俺、同じなのかぁ?イッたやつとぉ!?
君も懲りないねぇ
司の話は続いた。それは茜自身の話となっていった……
「私は司のことを忘れなかった。それでも……司は帰ってこなかった」
俺は黙って茜の話を聞いていた。
いや、俺自身が消えてゆく以上、茜にかける言葉が無かった。
「だから……あなたを忘れます。名前も、顔も、温もりも……思い出も、全部忘れます」
そんな中、ふとした考えが頭の中に浮かんだ。
(電波って記憶の消去も出来たんだな……)
「……さようなら、浩平」(怒)
ちりちりちりちりちりちりちりちりちり……
だからぁ頭の中覗かないでぇぇぇ……
平行世界の記憶
あの雨の空き地で、残されたわずかな時間を茜と過ごした。
しかし、とうとう消えてしまった俺……
「いや、どうして!どうして私を置いてゆくんですか……どうして、私を一人ぼっちにするんですか」
――そのころ えいえんのせかいの浩平……
「ごめんな、茜……ってこの展開、もしかして…」
ちりちりちりちりちりちりちりちりちり……
「はぐおぉぉぉっ!やっぱりいぃぃぃ……」
あたしまで巻き込まないでぇ(詩子)
浩平が消えてから一年。公園で詩子と語らう茜。
だが、詩子の言葉の中に忘れらていたはずの人の存在があった……
「ど、どうしたの茜っ」
茜の頬を止まらない涙がながれていた。だが茜は泣きながら微笑んでいた。
「うれしいから……約束を守ってくれたから……」
近づいてくる足音…
「やっぱりねぇ、私は噂をすれば現れるタイプだと思ってたのよ」
足音は茜の目の前で止まった。そして…
「ただいま……茜」
「おかえりなさい……浩平」
ちりちり…
「はぉっ…茜?」
「………一年分です」
ちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちり
ちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちりちり……
良い子はまねしないように(できないって)
一年分(泣)の後、詩子と別れた俺たちは二人で歩いていた……
「そういえば、茜の誕生日はいつなんだ?」
「今日です。これが詩子に貰ったプレゼントです」
そう言って丁寧にラッピングされた袋を見せる。
「うわっ、何も用意してないぞ」
誕生日を聞く前に消えたのだから知るはずも無いのだが、俺は悔やんだ。
そんな俺を見て、幸せそうに微笑みながら茜は言った。
「大丈夫です、これから二人で買いにいくんですから。ほしい物も決まっています」
あのファンシーショップでこの一年半、例のぬいぐるみを買おうとした客が突然意識不明になったり、気味悪くなって処分しようとした店員がすべて発狂したりしたせいで、奇妙な物体こと例のぬいぐるみは、『呪いの主』と呼ばれていた。
と、いうわけで無料で引き取れた二人であった。
「・・・いいんだろうか」