陽の章 十二
額を押さえ重い息を吐いた梓に、俺は錠剤と水のグラスを差し出した。
「迎え酒のつもりか? 飲みすぎだぞ、ビールじゃないんだから」
大人しく薬を飲む梓と空のバーボンのボトルを見比べ、俺は眉を潜めた。
眠った千鶴さんを会長室に残し、俺は梓の休んでいる部屋へ足を運んだ。
いつ起き出して飲んだのか、梓は昨夜封を切ったばかりのボトルを空にして、二日酔いの頭を抱えていた。
「…千鶴姉…は……?」
普段の元気の半分もない梓の声は、弱々しい。
「会長室で寝てる。明け方まで、梓に付いてたから」
「そうか。…ごめん、耕一。あたし、やっぱり馬鹿だ」
流石に昨夜の話は強烈だったのだろう。
梓は蒼い顔で額を押さえ項垂れた。
「どうした、しおらしいな? 梓らしくもない」
「そんなに酷いなんて、思ってなかった。全然気付かなかった。一緒に暮らしてたのに、あたし何も判ってなかった」
親父や千鶴さんの苦しみに気付けなかった自分を、責めているのだろう。
梓は頭を押さえ弱々しく頭を振った。
「それだけ苦労して隠して来たんだろうな。八年は長い。お前、知ってたら親父の前で笑えたか?」
「どうだろう…判かんない」
「みんなに心配かけるのは、親父も望んでなかった。梓や初音ちゃんの明るさ、優しさ。親父にも、千鶴さん達にも助けになってる。一緒に暮らしてた間、苦しんだだけじゃない。みんなが親父を励ましてくれた。感謝してる」
俺は軽く頭を下げ、瞳を潤ます梓を見返した。
「そうでなけりゃ、長い間頑張れた筈がない。だから情けないなんて言うな。千鶴さんも親父も、喜ばないぞ」
「…うん。ありがと、耕一」
涙を拭きながら梓は素直に頷いた。
「明け方起きてさ、手紙読んでたんだ。一杯涙で滲んだ跡があって、あれって、千鶴姉や楓の…涙の跡だけじゃないよね。…どんな…気持ちで…母さん……手紙…書いたんだろうって、……あたし……」
俺は梓の隣に席を移し、話ながら嗚咽を洩らし始めた梓の肩を抱き、心の中で詫びた。
飲みなれない酒を飲みながら、どんな気持ちで手紙を読んでいたのか。泣きながら読み返していたのか。
「スマン」
梓は小さく呟いた俺に、涙で濡れた顔を上げた。
俺は梓の涙を指で拭った。
「スマン、梓。話さない方が、良かった」
「…そんな事ないよ。知らなかったら、母さんや父さん、叔父さんも、あたし達の事を、どんなに想ってくれてたかも判らなかった。楓や千鶴姉の辛さも判かんなかった。知らなくて、いい筈ないよ」
しっかりした声で梓は言い、ごしごし顔を擦り立ち上がると、う〜んと伸びをした。
「でも。まだ初音には、教えたくないな」
掌で涙を拭い無理をした笑いを浮かべた梓は、勤めて明るい声を出した。
「そうだな。初音ちゃんは、力ないからな。教えなくて、いいと思うんだけど」
「耕一は、やっぱり初音には甘いな。だめだよ、いつかは教えないと。初音だって、母さんの手紙読みたがるよ。千鶴姉達だけで抱え込んで、初音が喜ぶ筈ないだろ」
梓に睨まれ、俺は頭を掻いた。
「まあな」
「あたしには容赦なかったクセに。初音だと態度が違うな」
腰に手を当て睨む梓は、やっと少しは元気が出て来た様だ。
「そりゃな。藁屑でも無いよりマシって気分だから」
「藁屑? 耕一! それ、あたしの事か!」
梓は俺を真っ赤に染まった顔で睨み付ける。
「何も気付かなかったクセに、言えるか?」
グッと詰まった梓に笑い掛け、俺は詰めに入った。
俺は梓にいくら謝っても足りない。
だが、もう引き返せない。
「梓、これからだ」
「何の事だよ?」
「お前が藁屑になるか、大木になるかだ」
俺の言葉の意味が判らない梓は、難しい顔になる。
「千鶴さん、支えてやってくれ」
「そんなの言われなくったって、判ってるよ」
ムスッとした顔で、当り前だと梓は胸を張る。
「じゃあ、いい」
呟きを返すと、梓は心配そうに俺を覗き込んだ。
「どうしたんだよ、耕一。やっぱり、今度来てからずっと変だよ? 今日も元気ないしさ」
「俺は大丈夫だ。ところで、ちゃんと考えたか?」
「考えたかって? 昨日話してくれただろ?」
俺は小さく息を吐いた。
やはり話さないとだめか。
「梓が俺に聞いたのは、千鶴さんが梓に話さない理由じゃなかったか?」
「うん。そうだけど?」
「そうだろ? じゃあ、千鶴さんの一番の辛さって何だ?」
俺は梓に最後の話を始めた。
「判かってるよ。父さんや母さん、叔父さんが苦しんだの、見て来たって言うんだろ」
ムッとした顔で仰け反る梓を見て、俺は溜息が出た。
「考え方、教えるからな。次からは自分で考えろよ」
「まだ、あるの?」
眉を潜め額を押えた梓を見詰め、俺は口を開いた。
「千鶴さん、不器用だよな。だけど力の使い方は、クラブで鍛えてる梓より遥かに上手い。どうしてだ?」
梓はいきなりの質問に顔を上げ、暫くして口を開いた。
「力使うのって、そんなに難しいかな?」
「お前、練習しないで連撃なんて使えるのか?」
「…使えない…よな」
乾いた笑いを洩らし頭を掻く梓を睨み、俺は説明を続けた。
「鬼だって、本能任せで技が使えるかよ 千鶴さんの戦い方は、早い動きが主体だ。梓みたいに真っ直ぐ殴り掛からない。力が五分なら、俺も勝てないかもな」
「それじゃあ、使い方……練習…した、のかな?」
上目遣いに覗く梓に頷き返し、俺は続けた。
「それを踏まえて考えろ。鬼が男に発現したらって話の時。千鶴さんは、少女時代から苦しんで来た。俺、そう言ったよな。両親が亡くなってからじゃないぞ」
「……聞いた…気がする」
「柏木直系の男は、鬼が百パーセント発現する。これも教えた」
俺が軽く睨むと、梓は喉を鳴らしグラスから水を飲んだ。
「…それって。…直系の父さんや叔父さんも発現したって意味だよね?」
「まあな。伯父さん。お前の親父さんだが。その発現から千鶴さんは見て来た。十五か、その前だな。だから亡くなってからでなく、少女時代だ。ここまでは、判かるよな?」
「…うん。でも…何で、そんな回りくどい言い方すんの?」
梓は顔を突き出し口を尖らすと、頭を掻きむしった。
「考えろって言っただろう。親父達の話はぶいて、お前が気付ける様にしたらこうなった。千鶴さんが俺を殺せる程、苦しんで来たのを教えれば。どんなに酷い物か、判かると思ったんだけどな」
「判かるか!」
ツバを飛ばし、梓の怒声が俺を襲った。
「最愛の男だぞ。思いっ切り追い詰められてるだろ」
耳を押さえ梓に言い返すと、梓は大きく溜息を吐いて額を押さえた。
「あんたは……」
俺は怒鳴り掛けた梓を、手を上げて押えた。
「時間ないから怒鳴んの後にしろ。千鶴さんが、何故そこまで思い詰めたか。親父達の話した時の事。思い出して考えてみろ」
「そりゃさ。また、苦しむの見て辛い思いするのが嫌だったからじゃないの?」
あっさり返す梓には、考えた様子もない。
「例の鬼が、人殺した翌日だぞ。お前は好きな男、そんなにあっさり想い切れるのか? 力の使い方を練習した理由は? 俺が千鶴さんに礼を言った時の事を思い出せよ」
「お礼? 叔父さんの事? 叔父さん捕まえるのに練習したのかな?」
梓は首を捻り俺を見た。
俺は溜息混じりで首を横に振った。
「違うって? でも耕一。叔父さんは、止めてくれる人が居て良かったって」
「言葉の裏を考えろよ。理性を無くし、暴走した鬼をどうやって止める? 止める方法は、一つだ」
喉を鳴らし息を詰めた梓は、蒼褪めた顔で俺を凝視した。
「…うそだろ……」
「八年間。少しでも親父を苦しめない為に、訓練したんだろう。ずっとその時が来るのを恐れながら生きて来た。覚悟してたから、俺の時も想い切れた。どんなに苦しかったか」
「…叔父…さん…を?」
切れ切れな呟きで尋ねる梓に頷き。
「親父も万一の時は、みんなを手に掛けるよりはと望んだと思う。そうなる前に自殺したんだろうが。お前が俺を襲ったから話したんだが。話した訳は、判ってるのか?」
俺は溜息混じりに梓を見返した。
「…話した…訳?」
「千鶴さん、お前を誰かが始末すると言ったよな? 俺が居なかったら、誰が殺る?」
「……!」
梓は小さく息を飲み項垂れた。
「すまん。それだけは、させたくなかった」
梓を千鶴さんの手に掛けさせるなど、考えたくもない。
「千鶴さん、お前に話せないだろ? もしもの時は、なんてな」
俺は細かく震える梓の肩を抱き、腕に力を込めた。
「……ごめん。ごめん…あたし、まだ…全然判かって……あたし…思ってるより。…ごめん、あたし……千鶴姉、…ずっと…心配させて……ごめ…ん」
洩れ聞こえた梓の声は嗚咽に混じり、切れ切れで掠れていた。
「謝らなくていい。スマン。鬼の血さえなければ、誰も苦しまなくて済んだ。スマン」
次郎衛門の妄執にも似た強い想いが、今日まで鬼の血を繋いだ。
全ては、次郎衛門とエディフェルの邂逅から始まった。
謝るのは、次郎衛門を宿す俺だ。
しかも俺は、梓まで巻き込んでしまった。
俺は深い後悔に包まれ、謝りながら梓の肩を抱き寄せた。
「耕一、あたしどうしたらいい? どうやったら千鶴姉を支えるなんて、出来るんだ?」
嗚咽がゆっくり収まり、腕を掴み濡れた瞳を上げ尋ねる梓を固く抱き締め、
「お前のままでいい。ただ心配を掛けるなよ。千鶴さん弱いからさ。殻に閉じ篭もらない様に気を付けてやってくれ」
梓の頬を流れる涙を指で拭い、俺は静かに話し掛けた。
「…千鶴姉が…弱い? …だって……」
梓は何かを言い掛け、言葉を途絶えさせた。
「梓も判ってるんだろ? 自分を正面から見詰められる程、強くはない。でも他の誰かに押し付けて、逃げ出せもしない。だから自分を胡麻化すのに、幾つもの顔が必要になる。誰かが支えてなきゃ、そのうち潰れる」
「でも、あたしじゃだめだよ。耕一が居るじゃないか」
濡れた瞳を向け、梓は自分の力の無さを悔しがる様に唇を噛み締めた。
「どうしてだめだ? 親父だって、お前なら支えられると思ったから話したんだろう? 妹を守るって想いが、千鶴さんを支えてる。お前だって、千鶴さん守りたいだろう?」
「だめだよ。あたし達は妹で支えなきゃいけない者だろ。千鶴姉は頼ったりしてくれないよ」
俺は歯噛みした。
あまりにも一時に多くのショックを受けて、梓は完全に自信を無くしている。
「今は違うだろ? 千鶴さんは、お前には全部話した。梓を一人前だって認めたんだよ。お前なら千鶴さんを理解出来る筈だ。藁屑じゃ嫌なんだろ? 大木になれよ。楓ちゃんだって居るだろ? 二人で支えてやってくれよ」
梓には出来る筈だ。
出来なければ、千鶴さんは完全に心の内に閉じ篭もるかも知れない。
「耕一、なんでだよ? 耕一が居れば、千鶴姉大丈夫だよ」
「俺は、……まだ居られないから。頼んでるんだ」
俺は言い掛けた言葉を飲み込んだ。
「大学が在るのは、判ってるよ。でも後一年だろ? 大丈夫だよ。一年ぐらいならさ、今のままでやって行けるよ」
だめなんだ。
梓、判ってくれ。
この数日が分かれ目になる。
梓が千鶴さんの隠してる顔に気付かないと、千鶴さんは誰にも心を開かなくなる。
「梓、どうしてだ。いつものお前らしくないだろ? どうして、あたしが支えて見せるって、言ってくれないんだ?」
俺は梓の肩を掴み、自信なさげに自嘲の笑みを浮かべた顔を見詰めた。
梓は俺から目を逸らし小さく息を吐くと、俺に顔を向け目を伏せ、ゆっくり唇を動かした。
「だめだよ、あたしなんか。千鶴姉が合わせてくれないと、何の役にも立たないんだから」
…知って、いたのか?
「耕一だって判ってるんだろ? 力が使えるんだからさ。あたしだって同じだよ。力使える様になったら、料理がおかしな味になっちゃった。初音の奴、千鶴姉の料理と間違えてたな。すぐ元に戻ったけどさ」
「だからどうした。お前の料理美味いじゃないか お前が、家の事全部やって来たんだろう?」
迂濶だった。
俺が目覚めた時、味覚がおかしくなったのなら、梓もなっているのを考えなかった。
千鶴さんが目覚めたのは、恐らく両親を亡くした前後だろう。千鶴さんの料理が食べられた物じゃなかったと、梓が言っていた時期とちょうど合う。
「千鶴姉、本気出せばなんだって出来るんだ。千鶴姉ならさ、家の事だってもっと上手くやるよ。あたしの居場所なんか考えなくったっていいんだ。わざと失敗なんかしなくたってさ、…そんなの、…される方が…惨めだよ」
梓は俯きぼろぼろと涙を零し始めた。
俺は腕を梓の肩に回し、頭をゆっくり撫でた。
とっさに慰める言葉が出なかった。
今の梓に何を言っても、虚しく響くだけだ。
こんな時に、千鶴さんの切れすぎる采配が裏目に出るとは、皮肉過ぎる。
柏木の家は自然に見えて不自然なほど、家での役割が上手く配分されていた。
梓に料理と家事全般、初音ちゃんが梓の補佐。
楓ちゃんの役割が、恐らくその日毎のこまごまとした日常を、千鶴さんに伝える事だと気が付いて、パズルは組み上がった。
千鶴さんが妹達に、役割分担を自然と行なう様に仕向けた結果だ。
初めは違ったのだろう。
味覚のおかしくなった千鶴さんに代わり、梓が料理を始めたのがきっかけかも知れない。
妹達の誰もが家の中で浮かない様に、ひがんだりコンプレックスを持たずに済む様に、果たす役割を与えて在った。
千鶴さん自身もそうだ。
いざと言う時は頼りになる優しく温かで、ほどほどに抜けた所がある親しみやすい姉。
余りにも出来すぎていた。
いかに株を持っていようと、飾りでも大企業の会長がそれでは、周りは納得しない。閑職に追いやられるのが落ちだ。
親父にも判っていた筈だ。
親父は、千鶴さんに会長職が勤まると判断した上で、命を絶った筈だ。
ホテルで萩野や佐久間に見せ。
夏に長瀬達に対した冷たく厳しい顔。
長瀬が寒気を感じる迫力と評した顔が、会社での顔だろう。
千鶴さんが無理をしているのは、判っているが。
会社は、それで何とかなった。
だが家では。
梓達が与えられた役目に気付かない間は良かった。
だが梓は気付いた。
梓が千鶴さんをからかうのも、年齢差を埋め二人が対等だと言う主張だろう。千鶴さんをやり込め、自分は千鶴さんより劣っていないと自信が持てる。
梓が千鶴さんを台所に入れなかったのも、自分の方が家事が上手いという自信が在るからこその自己主張だ。
自信が在るから与えられた役割だと気付いても、自分の場所だと言えた。
だが今の梓は、自分に自信を無くしてしまっている。
自分には耐えられない重荷を背負いながら、自分達の事まで気遣う千鶴さんに、何をやっても敵う筈がないと思い始めている。
自分に自信を持っている人間程、一度コンプレックスを持つと立ち直るには時間が掛かる。
しかし今は、その時間がない。どうすればいい。
「梓、お前陸上部だったよな?」
俺は顔を手で拭い鼻をグズグズすする梓に、頭を撫でながら話し掛けた。
「…うん」
「練習きついか?」
「…耕一、…何だよ急に?」
掠れた鼻声で、梓は俺に擦りすぎて赤くなった目を向けた。
「練習しなくても、早く走れる方法って在るのか?」
「そんなの無理に決まってるよ。みんなくたくたになるまで走り込んでんだから」
普段なら、そんな方法在るか! と怒鳴り付ける梓が大人しく返すのに苦笑いを浮かべ、俺は顔を梓に向けた。
「そうだよな。努力しないで、早くなんてならないよな?」
「当り前だろ」
軽く睨む梓に笑い掛け、俺は肩を抱いた腕に力を込めた。
「梓、お前のグラタン美味かったよ。初音ちゃんに聞いたんだけど、本見て作ってくれたんだってな」
「なんだよ、今頃」
薄く照れて笑いながら、梓は頬を染めた。
「和尚さんも褒めてたよな? お前の料理には愛情が篭もってるって」
「耕一?」
「千鶴さんが努力もしないで、お前より美味い物作れる訳ないだろ?」
「……そう…かな?」
呟いた梓の頬の涙を指で拭うと、梓の顔が赤く染まった。
「自信持てよ。お前は千鶴さんじゃないんだから。梓には梓のやり方が在るだろ? 元気で、口が悪くて猪突猛進で。後先考えず突っ走るのが梓だろ?」
「それって、全然褒めてないぞ」
「俺は梓の性格、気に入ってるぞ」
鼻声で目を眇(すが)める梓に笑って返すと、梓は瞼を瞬かせた。
「お前と千鶴さん、丁度反対なんだ」
「…反対?」
「うん。梓は感情が顔にハッキリ出るだろ? 千鶴さん、考えて顔作ってる。でも急だと反応が遅れるんだ。それでしまったって、素の顔して。ぎこちなく笑ってごまかしてな。また顔作るんだ」
俺が笑いを洩らすと、梓もつられて頬を緩めた。
「幾つも顔作ってるから。もう自分でも、どれが本当の自分かなんてわからないんじゃないかな」
「でもさ、あたし怒る時なんか恐ろしく怖いけど。あれも役な訳?」
「半分そうかな、厳しく仕付ける母親だな」
「後の半分は?」
「甘えてるんだ」
俺が軽く言うと、梓は眉をしかめた。
「重荷を背負わせたくないから話せない。だけど自分の辛さを判って欲しい。ジレンマだな」
「ジレンマ? だって千鶴姉ぐらい頭良かったら、上手く折り合い付けられるんじゃないのか?」
首を捻る梓に笑い掛け、俺は小さく息を吐いた。
「折り合い付けるには器用すぎる。頭も良すぎるな。普段はいいんだよ。自分では割り切ってるつもりでいるから」
「割り切ってるつもりって? 自分では? 耕一、あたしに判る様に話せよな」
口を尖らせる梓の頭を一つ撫で、俺は説明を続けた。
「顔作ってる間は、役目だって割り切ってる。自分を胡麻化せるって意味で、器用だ。でも、役を離れて一人になると。誰かに助けて欲しい、辛さを判って欲しいって、本音が出るんだな」
「良く判んないな。千鶴姉が二人居るみたいじゃない」
「判ってるじゃないか。そう言ってるんだ」
「……あたし、自分がどうしょうもなく馬鹿に思えてきた」
梓は頭を押さえ、唸る様に呟いた。
「簡単に言うとな。家では、親しみやすい姉の顔。会社では、厳しい会長の顔って。使い分けてる。器用だろ?」
「姉と会長、二人の千鶴姉か?」
「でも不器用だから、中間が出来ない」
「使い分けるなんて、良くそんな事が出来るな」
「出来なかったら、壊れてる」
ギョッと目を見開き、梓は俺を見詰めた。
「苦しみ抜いた両親が死んで、それでなくても苦しい時期に、鶴来屋の利権争いで他人が信じられなくなった。精神的に追い詰められたんだろう。今にも壊れそうな心を騙して胡麻化して正常に保つには、複数の自分が必要になったんだろうが。追い打ちを掛ける様に親父の鬼だ。幸か不幸か、千鶴さんには、それが上手く出来た。普通意識して出来るもんじゃないんだが」
不幸な程、凄い女だ。
出来なければ、全部放り出して逃げ出せもしただろう。
もっと心が強ければ、逃げ場を作って上手く昇華出来た。
今にも崩れそうな心で、意識していくつもの顔を作り上げ、上手く使い分けている。
鬼と人の意識の融合が、手本になって助けたのか。
それとも責任感の強さと、妹達への想いがそうさせたのか。
「ちょ、ちょっと待てよ、耕一! それじゃあ、上手く出来なかったらどうなるんだよ!」
「だから壊れるんだ。人格が分裂するか。心が現実を拒否する。簡単に言えば、気が狂う」
開いた唇を戦慄かせ、顔から血の気が失せた梓の肩を抱き寄せ、俺は静かに微笑んだ。
「大丈夫だ。もう一番辛い時期は終ったんだ」
「…あっ、ああ。耕一は、大丈夫だもんな」
震える指でグラスを取り上げ、両手でグラスを握り喉に水を流し込む梓を見ながら、俺は黒く濁った赤く濡れた瞳を思い出していた。
あの時、千鶴さんは壊れかけていた。
俺の部屋に来た時から、壊れ始めていた。
「…耕一? どうしたの?」
心の痛みに眉を潜め、苦い思いに浸り込んでいた俺は、見上げる梓の、元気のない不安そうな声に我に返った。
そうだ。
二度とあんな事は。
「うん。今のが仮面付け出したきっかけだろう。でも梓の前では違うよな」
「なにが?」
俺が話を戻すと、梓は眉を潜め首を捻った。
「梓を怒ってる時さ」
「あっ。ああ、うん。半分って言ったっけ?」
「梓怒る時は、半分保護者だけど。半分は自分なんだ。自分の辛さを判って欲しい。だけど話せない。その苛立ちが、怒る時に厳しくさせるんだろう。梓なら、苛立ちをぶつけても、自分を嫌ったりしない。そう信じてるから感情が抑え切れないんだ。他で出せない甘えが、梓に出てる」
「随分迷惑な甘え方だな」
ふっと息を吐くと、梓は口を尖らせる。
「でもな。千鶴さんに一番近いの、梓だ」
「なんで? 耕一じゃないの?」
からかう様に梓は、俺を見上げ首を傾げて見せた。
「俺は、信用されてない」
「なに言ってんだ? 千鶴姉、耕一には全部話したんだろ?」
「手向けだ」
梓は首を傾げたまま、眉を潜めた。
「手向け?」
「殺す理由位、教えたかったんだろう」
梓は表情を強ばらせ、目を見開いた。
「そうだ」
「…だって。耕一、それじゃ……」
梓は落ち着こうと、息を一つ大きく吐いた。
「じゃあ、耕一、いつ鬼だって知ったの? おかしいよ、知らないのに力使えるかどうか何て、判らないだろ? いきなりそんな話し聞いて、良く信じたな」
「俺の殺した鬼の影響受けててな。眠ってる時に、あいつの意識と俺が繋がっててさ。最初は俺も、自分が犯人じゃないかと思ってた。目覚めたのは、落ちた水門の水の中だ。あれがなきゃ、一生話して貰えなかったかな」
溜息混じりに話すと、梓の顔が奇妙に歪み頭を抱えた。
「じゃあ、なに? 犯人だって言うの、千鶴姉の思い込みだけ?」
「まあな」
「…呆れるのも…馬鹿らしくなってきた」
信じられないと頭を振って溜息を吐いた梓に軽く返し、ぼやく梓に俺は話を戻した。
「千鶴さんが信頼してるのは、親父とお前達だけだろうな」
「でも、どうしてそう思うんだよ。あたしだって、やっと話して貰ったばかりだよ」
情けない声を出した梓の頭をぐりぐり撫で、俺は笑って見せた。
「梓は、千鶴さんが俺殺してたら許せたか?」
「耕一、止めろよな。そんなの考えたく無いよ」
梓は両手を膝で握り締めると、俯き顔を隠した。
「前は無理では、今は許せるだろう?」
「止めろって!」
「みんなは、訳を話せばいつかは許してくれる。意識してなくても、千鶴さんは、そう信じていた筈だ。千鶴さんはお前達を失ったら、生きて行けない。だがな……」
驚きに顔を上げ、ジッと見る梓の頭をもう一度撫でると、梓は震える唇を動かした。
「…耕一、あんた。…そんなの……」
「まっ、そう言う事だ。そんな顔するなよ、俺は平気だから。苦楽を供にした姉妹との差ってトコだな」
「そんなに千鶴姉がいいのかよ」
笑って返すと、梓は視線を逸らし溜息の様に洩らした。
「千鶴さんも信じたがってる。でも信じ切れないから、余計な罪悪感まで感じてる」
「…そりゃ。あれだろ?」
「いいや。嫉妬焼いたり、感情はぶつけるけどな。その後、俺に嫌われてないか心配してる。梓と違って、俺に嫌われないとは思ってない」
俺の言葉に不思議そうに梓は目を丸くした。
「だってさ、好き合ってるんだろ? なんか変だよ」
「愛情と信頼は別だ。愛情は想いだ。愛してるから温め合おうと心が相手を求める。でも、信頼してなくても愛せるんだ。信じてなくても、心は温かさを求めるから」
「そんなの変だよ。信じてるから、愛してるって言うんだろ?」
梓は赤く染まった顔を伏せて隠し、ぼそぼそと聞いた。
「もちろん心が求め合って、信じ合えれば、理想的だ」
「千鶴姉は違うって言うのか?」
「心では求めてくれてる。信じ切ってないけど、一度仮面外したから、他に誰か居ないと器用に従姉役に戻れなくなった。二人だけになると、感情を抑え切れないんだな。拗ねて嫉妬焼いて、ぼろぼろ泣いてな」
驚いた様に軽く目を開き、梓は感情を抑え話す俺を見詰めた。
「じゃあ他に誰か居ると。千鶴姉は、本当の自分が出せないって?」
「家で俺と話してる時は、違うだろ」
俺は話を理解して来た梓の問いに、安心して頷いた。
「耕一が部屋借りたの、そのせいか?」
「うん。そうやって確かめてるんだろう」
「確かめるって? 甘えてるだけじゃないの?」
「甘えても、俺が嫌わないって確認して安心出来るんだ。でも冷静な部分では、子供じみた真似して嫌われなかったか、逆に不安がってる。誰だって好きになると不安は持つけど。千鶴さんは極端だ。支えになるか、なら無いか。好きか嫌いかしか無い。千鶴さんには中間がないんだ。不器用だろ?」
「そう言うの不器用って言うのか? 甘えといて勝手に不安がってるんじゃ、我が侭だろう」
子供の我が侭だと、呆れた顔で梓は頭を押さえ首を振った。
「なにしろ、ずっと俺に嫌われてると思ってたぐらいだからな」
「へっ? なんだ、それ?」
溜息混じりに洩らすと、梓の口元がぎこちない歪んだ。
「俺さ、子供の頃初めて会った時。千鶴さんに頭撫でられて、照れ臭くて手を払い退けたんだけど。それからずっと嫌われてると思ってたらしい」
「へ、へっ。嘘だろ? どう見たってさ、耕一が千鶴姉嫌ってるなんて思えなかったぞ」
信じられ無いという顔になった梓は、呆れた様な妙な笑いを洩らした。
「そうだろ? 好かれてないなら嫌われてるって考えしか、千鶴さんには出来ないんだ」
「ハァ〜。そんなの、どうやって安心させるの?」
「まあ、いろいろだけど」
言えるかよ。
その度、目を見詰め抱き締めてキスするなんて。
「じゃあ。嫌われてるって思ってて。ずっと従姉の姉さん役やってたのか?」
「そう言う事だ。梓も随分判ってきたじゃないか」
「耕一、あんた苦労するね」
苦笑いで返した俺は、しみじみ梓に言われ溜息が出た。
まさか梓に同情される日が来るとは。
「まあ。だから梓が、一番千鶴さんに信用が在る。お前なら、千鶴さんの仮面ひっぺがせる筈だ。それに、失敗の半分以上はワザとじゃないぞ。あの不器用さと惚けは天然物だ」
「天然。ってね。好きだってわりには、結構酷い言い方じゃない」
「一度に二つの事やろうとするから、失敗すんだよ。考え事しながら、皿洗うと割るとか。歩きながら話そうとして、つまずいたりな」
「ははっ、確かに不器用だ。でも、そうかもね。でもさ、もう耕一も大丈夫だし。あたし、もう心配掛けないからさ。後は鶴来屋ぐらいだろ? そんなに心配する事ないんじゃないの?」
梓が安心した様に軽く笑って言った言葉が、胸にズキンと重い痛みを走らせ、俺は眉をしかめた。
「梓、千鶴さん太ってると思うか?」
「へっ? なんだよ、急に?」
「お前や楓ちゃん、初音ちゃんもだけど、太る体質か?」
「違うけどさ。歳食うと太るのかな」
へへっと笑った梓に俺は真剣な顔を向け。
「朝食抜き出したの、夏に俺が来てからじゃないのか?」
目を細めて見詰めると、梓は頭を掻きふっと息を吐いた。
「なんだ、知ってんのか? そうだよ、太ると耕一に嫌われるとでも、思ったんじゃないの」
「変化を、拒否したんだ」
からかい半分の梓の返事に低い声で告げると、梓は首を捻る様に俺を見返した。
「親父の死は、千鶴さんに取って、絶望と同時に救いでも在った」
「救い? 耕一! 叔父さんが死んで、千鶴姉が喜んだって言う気か!? いくら耕一でも、許せない!!」
「悲しんださ。後を追いたい程絶望した。だがな、殺さなくて済んだ。毎晩、いつ殺すか怯えなくて良くなった。同時に安心して、何が悪い」
怒りに顔を歪ませ胸倉を掴み上げた梓に、高ぶる感情を何とか抑え、睨み付ける目を見詰め返し静かに返すと。梓は唇を噛み締め手を離し、身体を戦慄かせながら視線を逸らすと小さく頷いた。
「俺が来た当初は、鬼が発現する兆候が無かった」
「なにが言いたいんだよ!?」
「千鶴さんに取って、両親を亡くしてから一番幸せだった。いつ大切な人を殺すか怯えなくていい。親父が帰って来た様な俺と、妹が居る普通の生活がな」
「それが、朝飯とどう関係するんだ?」
俺の真剣な静かな話し方に、梓も不安な顔で眉を潜め、真剣に聞き返した。
「千鶴さんな、親父を鶴来屋目当てで殺したって、噂されてたんだ」
「なっ! 何処の馬鹿だ、そんな事言う奴は!!」
「怒鳴るな! 肝心なのはこれからだ」
握り拳を震わせ腰を上げた梓の肩を押え一喝し、俺は水差しからグラスに水を注ぎ梓に渡した。
ムッとした顔を向けた梓も、目を細めて見せると大人しくグラスを受け取り水を飲んだ。
「千鶴さんも噂を知ってた。そんな状態でも、今までに比べれば、千鶴さんは幸せだったんだ。だが、俺に発現の兆候が見え始めた。再び、夜毎の苦しみが戻って来るかも知れない。それを認めるのを拒否する心の葛藤が、食欲を無くした訳だ。軽い拒食症見たいなもんだと思えばいい」
「…でもさ。千鶴姉、未だに朝食抜いてんだよ」
「ああ。不安な日常が普通になってたから、逆に今の幸せが不安を呼ぶんだろう。今にも幸せが崩れるんじゃないか。本当は、俺に恨まれてるんじゃないかってな」
ホテルでは、俺と朝食を取った。
昨日朝食を勧めた時も、急に由美子さんを持ち出したりして、不自然だった。
今度は楓ちゃんが心配なんだろうが。
間違いならと思っていたんだが。
不安を満面に浮べ見詰める梓に向い、重い哀しさに歪む頬で、俺は小さく息を吐いた。
「だから、千鶴さんに取っての幸せって、…家での何げない日常なんだよ。…みんなで笑って飯食えんのがさ。…親父殺したって言われてても、…鶴来屋や旧家の看板背負って、…潰されそうでも。…それだけで幸せなんだよ。…まだ…二十三じゃないか。そんなのが幸せだなんて…言えるかよ。…なんで…笑えんだよ。…これから…だろ」
「…耕一。泣くなよな、男だろ」
梓に肩を揺すられ、俺は抑え切れず自分の頬を伝った熱い物を腕で拭った。
肩を揺すった梓の頬を、同じ様に熱い物が流れていた。
「…悪い」
「…いいけどさ。…やっぱり、あたしって情けないな」
涙を拭いながら、梓はぼそぼそと呟いた。
「生まれてから一緒に住んでてさ。耕一の十分の一も、千鶴姉判ってないんだ」
「これからだって。俺、ここまでたどり着くのに三ヶ月掛かったんだぜ。梓に一日で判られちゃ、俺の立場が無いだろ」
「三ヶ月だ? あんた帰ってから、そんな事ばっか考えてたのか?」
自信をつけさせ様と苦い顔で洩らして見せると、梓は顔を拭っていた手を止め、呆れた様に目を開いた。
「心理学とかいろいろ調べたな。お蔭で知識は広がったけど」
鬼を押さえる方法を探すつもりで始めたが、千鶴さんが心理学を学んだのも同じ様な理由だろう。
鬼ではなく千鶴さんの不安の正体が、こんな結論に行き着くとは思わなかった。
「全部千鶴姉の為かよ」
寂しそうに呟いた梓の言葉で、俺の胸の中で否定と肯定が揺れた。
「さあ、どうかな」
そうだと言ってしまうのは、欺瞞だろう。
自分の罪悪感を埋める為かも知れない。
「まったく。呆れた男だねぇ。変わったと思ったけど。やっぱり、ただの馬鹿だ」
曖昧な返事をどう取ったのか、梓はふっと息を吐き、首を傾げ俺を見上げた。
「どうせ馬鹿だよ」
ぶすっと言い返すと、梓は面白そうに首を傾げ直し目を細めた。
「まあ。千鶴姉も、どうしようない大馬鹿みたいだから、丁度いいか」
「そりゃどうも」
調子の戻って来た梓に顔をしかめて見せ、俺は話を戻した。
「千鶴さんも心理学やってたからな。自分でも判ってるから、朝食抜くだけでバランス取ってるんだろう」
「なあ、でも拒食症って食べられないんだろ?」
「拒食見たいなだ。食欲が無くなる軽度のもんだ。食べられる間は心配ない。酷くなると食べても戻す様になる。ストレスまでコントロールするから、一気に吹き出すんだ」
「じゃあさ。今度篭もったのって、食べたく無くなったって事なのか?」
考え考え眉を潜め、身を乗り出した梓に頷いて見せる。
「ああ、だからさ。今度みたいに飯も食わずに篭もる様だと、要注意だ。まあ、ストレスの度合いを知る信号みたいなもんだな。そんなに心配するな」
「じゃあ朝飯食べる様になれば、不安なしって事か?」
安心した様に、梓はふっと頬を緩め明るい顔になった。
「ああ、一番信用されてる梓が気を付けてやってくれよ」
「判ったよ。不器用な姉を持った不運と諦めて、出来るだけの事はする。それでいいんだろ?」
それ程深刻でもないと安心したのだろう。
不満そうに言いながら、梓の目が子供の様に手の掛かる姉を、可笑しそうに笑っていた。
「悪いな。頼むよ」
少しは自信が戻って来た梓の頭を、俺が一頻り撫でると梓の手がうるさそうに払い退ける。
「初音じゃないって。でも……」
「うん?」
「耕一、ありがとな」
「…うん」
自分を励ます為に話したと思ったのだろう。
照れくさそうに赤くなった顔を俯いて隠し、鼻を掻く梓に頷き、俺は心の中で詫びながら立ち上がった。
「じゃあな、梓。疲れただろう? 夜には、千鶴さんも来るだろうからさ。それまで飯食うなり、寝るなり、ゆっくり休んで、一緒に帰れよ」
「耕一、何処行くの?」
不安になる話ばかりが続き、一人になるのが心細いのか、立ち上がった俺を、梓は表情を曇らせ切なそうに見上げ腕を掴んだ。
「書き置きはして来たけど。初音ちゃん達が心配してるだろうから。会長室寄って、一度家に戻って様子見てくるよ」
掴まれた腕を見ながら答えると、梓は自分の子供じみた行動を恥ずかしがり、腕からぱっと手を離し首を竦めた。
「…そうか、そうだよな。起きたら三人とも居ないから、今頃慌ててるかな」
梓は顔を伏せたままそう言うと、赤い顔を上げ笑って見せた。
「じゃあ。元気だせよ」
「なあ、耕一」
呼び止められ、俺は足を止め振り返った。
「本当の千鶴姉ってさ。どんな顔なんだ?」
俯き加減で尋ねる梓に、俺は首を傾げ笑って見せた。
「それは、梓が自分で見つけないとな。頑張れよ」
気付いてくれ梓。
癒されない痕を抱え、寒さに震え泣いている子供なんだ。
俺は梓に背を向け、振り返らず部屋を後にした。