はぢめてのそ・い・ね♪
 

「祐一さーん、そろそろ……はぇ?」

 キッチンから顔を出してみたら、日当たりのいい窓際に、祐一さんが大の字になっていました。
 はやや……お日様が気持ち良すぎたんでしょうか? 祐一さん、ぐっすり眠っちゃってるみたいですね。

「……ゆーいちさ〜ん……?」

 小さく呼びかけても、返って来るのはすーくーという寝息ばかり。
 はえぇ……これは、完全におねむですか。どうしましょう?
 佐祐理は足を忍ばせて、そっと祐一さんの傍に近付いてみます。

「……祐一さん……ぐっすり……」

 ぺたんと女の子座りして覗き込むと、あどけない寝顔が横を向いています。無防備な、幼い子供のような祐一さんの寝顔……
 安心しきっちゃってますね。男の子に言うのもなんですけど、可愛いです、くすっ。

「……すー……」

 でも、祐一さんったら、せっかく佐祐理がおうちにお呼びしたのに……待ちくたびれて一人で先にぐっすりなんて、ちょっとひどいですよー?
 つんつん。
 ちょっと悔しくて、だけど無防備な寝顔を見せてくれたのが嬉しくて。あと、ただ純粋に触りたくなって。
 ちょんちょんと、祐一さんのほっぺたを突っついちゃいます。すると、

「んー……」

 くすぐったそうに、祐一さんが身を捩らせます。
 くすくす。
 なんだか楽しくなって、何度も何度も、同じ事を繰り返してしまいます。
 えい、えい♪
 いつのまにか、佐祐理も祐一さんの隣に寝転がって。頬杖をついて、はしたなく足をぱたぱた動かして。祐一さんの寝顔を見つめて、時折悪戯を繰り返し……

「んー……さゆり……さん」
「!?」

 ふえぇっ!?
 お、起こしちゃったんでしょうか?

「……ゆ、ゆういち……さん?」

 おそるおそる囁きかけてみると、

「むにゃ……」

 ……ほっ。
 よかった、寝言だったんですね。
 ……あ。でも、寝言で佐祐理の名前を呟くなんて……
 も、もしかして、祐一さんは佐祐理の夢を見ていらっしゃるんですか?
 …………………………………………………………………………………………………………

 ぼっ!

 そそそそそんなな、ゆゆゆーいちさんがさゆりを夢で見てるとゆーことはひょっとするとそーゆうことで、でもえーっともしかしたらそんなそのだめですよぅまだはやすぎでもないですけどやっぱりこういう事はちゃんとあっちょっと待ってくださいってばやっそんないぢわるしないでぇってはぅもうさゆり限界ですって……あうぅ……(ぷしゅうぅ……)

 ほええぇぇ〜……

 頭の中でいろんな情景がぐるぐる渦巻いて、おーばーひーとしてしまいました。な、なんだかヘンな妄想とかまで混ざっちゃったような……は、恥ずかしいです

 ……ふぇ。

 突然、ほっぺたが真っ赤になってしまったのが、自分でも分かります。
 はぅ……なんだか火照っちゃいますよぉー。
『彼が、私の夢を見ている』
 ただそれだけの事が、たまらなく嬉しいんです。幸せで、心が暖かいものでいっぱいになっちゃいます。

 はふぅ……

 そっと吐き出した溜息は、とてもとても甘い……祐一さんへの想いに、染まっていました。甘すぎてパニック寸前で、とても祐一さんに渡せないくらいの、砂糖菓子よりも甘い佐祐理の気持ち……

「本当、どうしてでしょうね……」

 いつの頃からなのでしょう、こんな風になっちゃったのは……
 この人が、傍らにいるようになってから?
 それとも、彼が親友を助けてくれた時から?
 あるいは、自分の心の傷に気付いてくれた時から……?
 ひょっとしたら、始めて出逢ったその時に……?
 佐祐理は、この人に……祐一さんに、恋をしてしまったのかもしれません。
 見つめられるだけで、胸がどきどきして来るんです。声を聴くだけで、気持ちが浮わつきます。触れられたら心臓が跳ねちゃいますし、一緒の空間にいるだけで……不安も心配も、なにもかもが吹き飛んじゃって……幸せな、暖かい気持ちになれてしまう。
 知ってますか、祐一さん?
 佐祐理は……貴方の事が、大好きなんですよ?
 舞に対するものとも違う、家族や、友人に向けるものとも違う……祐一さんだけに抱いた、たったひとつの特別な『好き』。
 佐祐理が、こんな感情を秘めている事を……貴方を愛しく想っている事を、

「ゆういちさんは、しっていますか……?」

 間近で、小さな子供が内緒ですって囁きかけるように。多分揺れてる双眸を潤ませて。
 虚空に掠れるように口から零した佐祐理の言葉は……

「ん……」

 届いたのかも、しれません。

「んー……」

 祐一さんが、もぞもぞと動いて。少しだけ佐祐理の方に首を傾けました。瞼は閉じていて、寝息も静かに、でもしっかりと聞こえています。
 だけど……

「さゆり、さん……俺がー……いる、ぞぉ……」

 祐一さんは、そう。寝言だけど、確かにそう言ってくれたんですから。

「祐一、さん……」

 はぁう……なんで、なんでこの人は、ほんとにこれ以上ないってシチュエーションで……こんなに、佐祐理の胸をどきどきさせてくれるんでしょう。
 とくとく、から、どきどきに。それからどっくんって大きくなって。鼓動が次第に、高く強くなっていきます。
 眠っているのに、聞こえているはずないのに。祐一さんはどんな時でも、佐祐理の呼びかけに応えてくれる……
 ゆうぃちさぁん……寝言の、しかもほんのちょっとの言葉だけで、そんなに優しくされちゃったら、佐祐理、もう貴方から離れられなくなっちゃいますよぉ……
 全然冷めない、リンゴみたいに赤くなった顔をそのままに。
 嬉しくて愛しくて、佐祐理は身体を祐一さんのすぐ脇にぴたっと近付けました。
 そしてそのまま、昂ぶる想いのままに……

「ありがとう、ございます……ん……」

 ちょっぴり震える唇で、眠る祐一さんの横顔に感謝の印を。
 それからふと思いついて、そのまま……ころんと、祐一さんの左腕の上に転がり込んでしまいました。
 そっとその腕の中に身体を寄せて、服の裾をきゅっと掴んで。
 えへ……少し恥ずかしいけど、誰も見てないですし……偶には、こういうのもいいですよね。
 この腕の中は、世界で一番安心出来る特等席。いつでもどんな時でも、佐祐理が、そして『私』が甘えられる唯一の場所。

「おやすみなさい……祐一さんっ♪」

 もしかしたらこのお昼寝、良い夢が見られるかもしれませんね。だって佐祐理は、祐一さんに寄り添って添い寝して、その腕の中にいるんですよ?
 これ以上の贅沢……佐祐理はちょっと考えつかないです。
 願わくば、祐一さんと一緒にいられる、そんな夢を。
 ふわぁ……気持ち、いい……
 ぽかぽかした陽気に、だんだん眠気が襲ってきました。佐祐理もすぐにうつらうつらとし始めて……いつのまにか、祐一さんと一緒に午睡の中。
 窓の外から部屋を覗いた小鳥達も、きっと微笑してくれるでしょう。大好きな男の子に抱きついて、幸せそうに眠る女の子がいるんですから。
 それはきっと、微笑ましい光景……
 なんだか平穏な、うららかな春の日の午後でした。

 ……ちなみに、祐一さんの腕枕を借りて、甘えるように寄り添って。そんな恥ずかしい添い寝の状態で、二人してお昼寝してたのが舞にばれたのは、その日の夕方。
 いつもの数倍鋭いちょっぷで叩き起こされた祐一さんは、目を白黒。突然、がばって祐一さんが起き上がって、それで目が覚めた佐祐理も瞼をぱちくり。じっと二人を見つめる
舞の顔は、仲間はずれにされたとそっぽを向いて。
 訳の分からぬまま舞のご機嫌を取る祐一さんが、何故か夕食が出来るまで舞の腕枕にされたのは……ごめんなさい祐一さん。それは佐祐理が原因なんです。
 でもでも、舞。右腕は構わないけれどね……祐一さんの左腕は、佐祐理の専用に決まっちゃったんですよ♪
 
 
 
 
 

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