はぢめての膝枕
 

「いいお天気ですねー」
「そうだなー」

 桜咲き、春うららかなある日の午後。
 佐祐理と祐一さんは、近くの公園で日向ぼっこをしていました。
 お日様はぽかぽか。風も春のそよ風で、ふわふわした陽気が満ちています。桜の花びらが時折舞って、足元の芝生もゆらゆらと揺れて……
 心地よいですねー。思わず、ぽーっとなっちゃいます。
 佐祐理もつい、ふにゃ〜っとなってしまいそうな程の小春日和。祐一さんなんて、先程持ってきたお弁当を綺麗に平らげて、芝生の上に寝転がってしまいました。

「う〜ん……とてつもなく心地良いぞ」

 くすくす

 祐一さんったら、ほっぺたまで緩んでますねー。
 と、ごろごろとしばらく芝生の上で転がっていた祐一さんが、ふと顔を上げました。

 はぇ……?

 な、なんだか、じーっと佐祐理の方を見てますけど?

「じーっ」

 声にも出してますね(汗)。視線の先は……佐祐理の、太もも?
 あのぅ、そんなに見つめられると、さすがに恥ずかしいです、祐一さん。

「じーーーーーーーーっ」
「あ、あの……祐一さん? 佐祐理の太ももに、何かご用ですか?」

 は、はうぅ、何故か声が上擦ってしまいました。心なしか、頬も熱いです。

「佐祐理さん……」
「は、はい?」

 なんですか、祐一さん?

「……ちょっと、頼みがあるんだけど」

 はぇ? なんでしょう?
 祐一さんも、なんだか言いにくそうですが。

「その、膝枕してもらっても、いいかな?」

 …………え?

「……はい? 膝枕、ですか?」
「そう。佐祐理さんにしてもらいたいんだけど」
「え? あの、そので、でも、どうしたんですか、突然?」
「いや、佐祐理さんの太もも、柔らかそうだなーって思って」

 ぼっと、顔が熱くなってしまいました。
 や、柔らかそうって。あ、あの……

「そ、そんな……」
「佐祐理さんがしてくれたら、最高なんだけどなー」

 あぅ……ず、ずるいです、祐一さん。
 そんな、小さな子がおねだりするような、きらきらした目で見つめられたら……
 はうぅ、佐祐理、断れませんよぉ。

「あ、あの、その……さ、佐祐理の太ももなんかでよろしかったら……ど、どうぞ……」

 佐祐理はぎこちなく座り直して、祐一さんの為のスペースを作りました。
 今日の佐祐理は、黒のミニスカートとハイソックスに、白のセーター。祐一さんを膝枕したら……少し、素足が晒されちゃいます。

「おおっ! 佐祐理さんの膝枕っ! 漢の浪漫っ!」

 ろ、浪漫って……
 祐一さんが嬉々として這い寄って来ると、ごろんと寝転がっちゃいました。
 あ、さらさらした髪が、太ももをくすぐって……

「ん……っ……」

 はえぇ……思わず、声が洩れちゃいます。

「んー」
「ぁっ」

 ゆ、祐一さんっ、そんな、すりすりなんてしないで下さいよぉ。

「おお、やっぱり、思った通りすっげー気持ちいい。佐祐理さんの膝枕、天国だぁ」
「やっ……あ、あんまり動かないでくださいっ……んくっ……!」

 祐一さん、佐祐理の言葉も聞かずにほっぺたを太ももに擦り付けてきます。
 やぁん……恥ずかしいですぅ。

「うあー……すべすべしてて、やーらかくて、あったかい……佐祐理さんの太もも、最高だぁ。俺はやったぞ北川っ!」
「だ、だから……祐一さぁん……はぅん……」

 祐一さん、佐祐理の声が聞こえてないんですか?
 お願いだから。そ、そんなにはしゃがないで下さい。い、息が内股に……ふぁっ!
 佐祐理の心臓が、どきどき鳴ってます。顔が真っ赤で、火照ってます。きゅんと、胸の奥が締め付けられるように疼きます。
 だって今、佐祐理の太ももを……祐一さんが、枕代わりにしているんですよ?
 しかも……そんな、いつにも増して嬉しそうな、無邪気な笑顔を向けられたら……
 いくら佐祐理でも、撃沈されちゃいますよ。『あの』秋子さんですらくらっと来たという、祐一さんの無邪気な笑顔……
 はえぇ……なんだか、佐祐理の方が、まいっちゃいそう……

「佐祐理さん」
「ひ、ひゃいっ!?」

 びっくうぅっ。

 陶酔しそうになった所を呼ばれて、びっくりしつつ応える佐祐理。
 あぅ、思わず、変な声を出しちゃいましたよぉ。は、恥ずかしすぎです……

「ちょっと……寝ててもいいかな……」
「……祐一さん?」
「いや……あんまり、気持ち良くて……腹も、いっぱいだもんで……」

 祐一さん、目がとろんとしてきています。これは、ひょっとして。

「眠いんですか?」
「ええ……ここで寝たら……きっと、良い夢……見れそう、で……」

 だんだん、声が小さくなってゆきます。もう、眠る寸前ですね。
 だから、佐祐理は祐一さんが完全に眠りに陥ちる前に、身を屈めてそっと囁きました。

「はい。佐祐理の膝枕でよろしければ」
「ん……うん……」

 祐一さんは、もう半分夢うつつ。目が閉じて、身体から力が抜けて……やがて、小さな寝息が聞こえ出しました。
 祐一さん……眠っちゃったみたいですね。

「おやすみなさい、祐一さ……」

 ふと、そこで言葉が途切れます。
 ……そう、ですね。
 ちょっと迷いましたけど、佐祐理は改めて祐一さんの耳元に唇を寄せて、そして。

「……おやすみ、祐一……」

 小さく小さく、掠れるような呟き声で、<私>は<彼>の名前を呼び捨てました。
 それから、意味もなくわたわたと辺りを見回して。

 ……くすっ。

 なんだかおかしくなって微笑むと、佐祐理はそっと、穏やかな寝顔で眠る祐一さんの髪を梳ります。祐一さんも、心地良さそうに眠っています。
 そよそよと、暖かい春の風が頬を撫でていきました。満開の桜から、薄桃色の雪が次々と飛び散り、舞い降りてきます。
 そんな中、佐祐理は再び、ゆっくりそぉっと、身を屈めて……
 ……ここから先は、誰にも内緒ですよ?
 眠る貴方に、ささやかなおまじないです、祐一さん♪
 唇に指を当てて、うっすらと頬を染めて、佐祐理は優しく、膝の上で眠る男性(ひと)を、見守って……
 祐一さん、良い夢を……
 
 
 
 
 
 
 
 

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