柏木家迂闊者選手権
(贄 三章)
「私もうかつでした。あなたと初音が花火をしにゆくと言いに来たときに、止めるべきでした」
声もない俺に、千鶴さんはかまわず続ける。
「今夜は満月、しかもこの辺で花火ができそうな所と言えば裏山の水門の河原だとわかっていたのに・・・」
千鶴さんがなんのことを言っているのかわからないが、なおも独白が続く。
「綺麗な満月の夜ならば、女性も雰囲気に酔います。しかも周りにはまったく人気は無しとなれば・・・」
え”?
「小○生並の体型、色気の無さ、日常の態度からまさかそんなことはと・・・、考えが甘かったわ・・・・」
な、な、な、な
「はっ!もしや耕一さんあの噂に聞いたことがあるロリ○ンじゃ? いけない!いけないわ。耕一さんをんな間違った道に進ませる訳にはいかないわっ!! ここは我が身を犠牲にしてでも耕一さんを更正させなくちゃ。千鶴!がんばるのよ。あなたはまだ負けた訳じゃないわ。ファイトよ、千鶴!明日の勝利のためにっ・・・・・・・・・・」
「ち、千鶴さん!!なんで俺が初音ちゃんと(直接表現は控えさせていただきます)たことを知ってるの!?」
動揺した俺は自ら自分の死刑執行書類に判を押していた。
柏木家迂闊者王者 (贄 三章)
「・・・では耕一さん。逆に聞きますが、鬼と聞いてあなたはどういったイメージを持たれますか?」
突然尋ねられた俺は、少しびっくりしたが素直に応えることにした。
「ツノ、冷血、二重人格、偽善者で、胸が無くて、料理が下手で・・・」
思いつくままを言ううちに、俺の目はゆっくりと大きく開かれていった。
「やっぱりあなたを殺しちゃいます」
千鶴さんの目は反対に糸のように細められていた。
・・・しまった、つい本音が・・・・・・
それだけじゃないかもしれませんが
(贄 四章)
「ええ・・・でも、見えるという表現は少し違います。感じるんです、あなたの中の鬼の気を・・・」
千鶴さんはそう言うと、テーブルの上で指を組んでわずかに目を落とした。
「・・・鬼は互いを呼び合い、人間の感覚を越えた部分で互いを感じ合うことができます。私や楓は私達姉妹の中でも特に早く鬼の目覚めを迎えていたので、まだ目覚めていないあなたの中の鬼を観察することが・・・」
「千鶴さん・・・!!」
その時おれはうつむいたまま大きな声を出した。
「耕一さん、私はいいんです。耕一さんの望むままに・・・でも楓や初音には・・・」
「・・・・・・・・耕一さん、次からはもう少しソフトにお願いします。」
俺の隣で、顔を赤らめつつうつむく千鶴さんに楓ちゃん。
なんてこった。
それじゃ、ここに来てからの俺の妄想は、すべて千鶴さんや楓ちゃん、梓や初音ちゃんに筒抜けだったのか? 千鶴さんにあんな事や、楓ちゃんにこんな事やあまつさえ初音ちゃんにそんな事まで。
梓は・・・まあいいか。
「なんで、あたしだけなんにもないんだよっ!!!」
梓の交渉拳に続く団交拳、スト拳の3連コンボで薄れていく意識の中、俺はこの家にいる限り永久にプライバシーなど無いんだなと感じていた。