タオの章、予備知識未完成版

   遺伝形質と大脳ホルモン

 まず、本編ではエディフェルに血を与えられた次郎衛門がエルクゥになったとされています。しかし輸血だけでエルクゥ化出来るとは考えにくいと思われます。
 血液は確かに生命維持に重要な要素ではありますが、人体を根本的に変化させる物ではありえません。
 エディフェルも、エルクゥの細胞が根付くと言う言葉を使っています。
 そこで、エディフェルが次郎衛門を鬼にするさい、ヨークの力を借りたと考えました。
 その為に使われたのが、鬼の角と呼ばれる物だと仮定し。エディフェル自身の遺伝子を、ヨークの力と鬼の角を使い、細胞レベルで遺伝子に転写融合したのではないかと考えています。

 これ以後は、「凍った時」での女性劣性遺伝説の言い訳のようになりますが。樹は、男性にしか存在しないY染色体と男女間の脳の構造の違いにその答えを求めています。

 はなはだ心許無いのですが、X染色体に比べY染色体中には重要な遺伝情報が少なく、XY染色体の男性より、XX染色体の女性の方が生物的に優勢であると言う説を聞いた覚えがあります。
 そこで鬼の遺伝情報の多くは、Y染色体が重要な役割を負っているのではないかと考えました。
 女性が完全に鬼化出来ない理由も、X染色体中に存在する遺伝情報が、鬼の物より人の遺伝情報の方が優勢であったためだと考え。これによって、女性の鬼は劣性遺伝により一代雑種化したものだと仮定しています。

 さて、次に脳構造について。

 脳の男女差に付いて、大脳視床下部の視束前部にある領域が、女性より男性の方が五倍近く細胞群が大きい事が知られています。
 この細胞群のうち、前視床下部間質核と呼ばれる部位は、更に四つの亜核に分けられ。このうち、第一亜核と呼ばれる部位は、常に女性より男性の方が五倍ほど大きいと報告されております。
 しかし、男性同性愛者においては、この第一亜核が通常の男性よりずっと小さく。女性並であることから、男らしさと言われる表面上の性差も、脳にその理由を求めることが出来ます。
 また、この脳構造の差異は、Y染色体にある精巣決定遺伝子が、胎児の性腺源基に働きかけ。アンドロゲン(男性ホルモンの総称)を大量に分泌させ、脳の性差を決定するとされています。
 そしてまた、MAOA(モノアミン酸化酵素A)と呼ばれる脳内物質の不足が、人を凶暴化、軽度の知能障害をもたらすとも言われおり。MAOAの不足が、Y染色体の変異によることも確認されております。
 MAONはセロトニンやドーパミンを分解する酵素であり。セロトニンは、適度であれば人にやる気を起こさせるホルモンで、ドーパミンは快楽中枢を刺激する物質です。 しかし過度に分泌蓄積されれば、凶暴化、麻薬中毒と同等の快楽を与える物質でもあります。

 長々と理屈を述べましたが。

 つまり、柏木に生まれてくる子供が鬼の意識に悩まされながら、次郎衛門は悩まされなかった理由を胎児期のホルモン分泌に求め。更に、変異したY染色体によって、鬼の覚醒まで休眠状態に置かれた脳は、鬼の覚醒によりMAOAの分泌が抑制される事によって、暴力への飽くなき欲求と快感にさらされる事になると考えました。
 それにより、鬼の覚醒と同時期に自我の裏面にある鬼の本能が別人格のごとく表面に出て来る訳です。

 また満月期、事故、暴力事件は増加傾向のピークを迎えることから、月が心身のバランスを大きく崩すことが一部では事実として受け止められています。
 このように月の満ち欠けが人の情動に影響を与える事からも、鬼の力が月齢に関係するのは、心身のバランス。
 引いては脳内物質のホルモン分泌と密接な関係にあることが考えられ。月と鬼という二重の要素により、柏木の男性は、言わばオオカミ男症候群とでも呼べる状態に置かれる者と想定できます。

 更に、祖父耕平が鬼を制御出来た一因として、戦争による異常な状況の体験が、自己の内なる破壊衝動を受け入れ易くした為とも考えました。
 これは、鬼という意識を生み出す背景に、人の倫理に縛られた教育が大きく影響していると考えたためです。
 かっての人命を軽視する時代より、戦後人命尊重を重視した教育の中で育った賢治らが鬼を融合出来なかった理由の一端を、教育による鬼の残虐性を徹底して否定した態度にあると考え。人としての倫理と鬼の性質への嫌悪が生み出した相克が、精神の安定を求め鬼の性質を別の意識として、二重人格的認識を生み出したのでないかと思われます。
 これが、鬼と人の意識は別に存在するのではなく、同一の意識の裏面であるとした根拠です。

 気功及び、仙術。

 気功と言うより、仙術は人が人でありながら神になる術です。当然、欲望を抑え、感情を制御する方をも含みます。
 そして気による感情制御の可能性ですが、これも脳内物質の分泌に関係があります。
 禅僧などが、深い瞑想時ドーパミンを多量に分泌していると言う研究報告もあり。気功家も気の制御により、脳波を制御し脳内の分泌物質を制御している可能性が考えます。

 樹は鬼の精神接触と肉体的な接触。双方のもたらす快感及び精神融合が、鬼の破壊衝動や欲求を上回った為、耕一は制御が可能になったと考えています。
 少し生々しすぎますが。
 気功。特に房中術に置ける快感は、通常のセックスでは得られないエクスタシーをもたらすとも言いますので。


 エルクゥ、魂の輪廻と転生。

 エルクゥを魂と考えて下さい。
 これはレザムと真なるレザムを使い分けている点と、初音ストーリーに起因していますが。エルクゥと言う種は、閉じられた輪廻の環を人為的に作り出したのではないかと考えました。

 死したエルクゥは精神体(魂)として、ヨーク内部のレザムと呼ばれる場に集められ。ヨークのエネルギーを使用して存在し続け、新たな肉体の誕生を待って肉体に宿ります。
 この際、魂を肉体に振り分ける作業も、ヨークが行います。
 また、ヨークで航海中、肉体を得られなかった魂は、母星に帰還すると真なるレザムと呼ばれるエルクゥ達全ての魂の集積場に集められ、新たな肉体の誕生を待つ事になります。
 また、ヨークに働きかける事により、裏切りや背信への懲罰として、死後、このレザムからの追放が使われます。
 つまり、転生の折、記憶全てを持って生まれ変わるわけではありませんが。エルクゥは基本的にレザムという閉じられた輪廻の円環の中で、生と死を繰り返し、新たなエルクゥは生まれないことになります。

 そして皇族と呼ばれる身体能力で劣る女性、特に魂の場たるヨークを操る事で皇位身分は巫女的な権威を奮い、長い航海中もエルクゥ達を率いる事が可能となりました。
 しかし隆山に不時着した事により、真なるレザムへの帰還が絶望視された時、リズエルら皇族の権威失墜を招き、リズエルら皇族を奉じる者と、ダリエルを頂く者とのエルクゥの内部分裂を生み出す背景になったと考えました。
 その結果、皇族の指導力維持のため、リズエルによるエディフェルと次郎衛門の処刑の決定がなされます。

 そして、皇族四姉妹と次郎衛門の現在の転生ですが。
次郎衛門は、元もとエルクゥの魂の円環からは外れていますし。また皇族四姉妹は、エルクゥを裏切った事により、レザムの円環からは外れた存在になりました。

 そこで、魂の自己環境選択説ーー生まれ変わる場所や環境を、自らが選ぶという考えですが。
 これを考えに入れ、エルクゥの肉体と姉妹関係らの相違から、皆、過去と近しい環境に転生したと定義しています。
 千鶴には責任と重責、耕一には孤独な環境と言う具合です。

 そしてもう一つ、因果律と輪廻による業の浄化を考え。 ガイア理論を念頭に置き、本来の生命の円環から外れたエルクゥ四姉妹を加えた事により調和を崩した人の生命円環が、調和を取り戻すべく過去と近しい環境、近しい存在の再配置を促し、現在の環境、姉妹と耕一の関係を修正しようとしているとも定義しています。
 これにより、耕一と姉妹が過去の因果と業を乗り越えた時。過去の業は修正され、新たに未来に向けた円環が再構築されます。

 これがタオの章のタイトル、道(タオ)であり。
 悲しみと後悔に満ちた過去と現在を繋ぎ、過去の業と因果の環を乗り越えた時、新たな未来へと繋がる道が開けるものだと考えます。

           98 8・15現在までの考察

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