「やっぱり一日でレポートを仕上げるのは大変ね」
頬に手をあてて呟く秋子。
そして再びキーボードに手を戻す。
夕食の片付けと入浴が済んだ後、秋子は自分の部屋に戻り机の上のPCと向き合っていた。
今月末が期限だったはずの報告書がクライアント側の都合で急遽明日提出ということになったのだ。
時々PCの傍らに置かれた資料に目線を移しながらも、秋子の手はカタカタと まるで時を性格に刻む時計のように報告書の文章を打ち込んでいく。
静まり返った部屋にタイプ音だけがカタカタと響き渡る。
そんな状態がどのくらい続いたであろうか。
それまで好調に動いていた秋子の手がピタリと止った。
そしてディスプレイを見つめていた秋子の視線は部屋の天井に向かう。
何もない天井を見つめる秋子。
少し首をかしげながら天井を見つめていた彼女は、暫くすると天井を見つめたままにっこりと微笑んだ。
そうして視線をディスプレイに戻すと、再び正確なテンポで文章を打ち込み
始める。
そうしてまた静寂の時がどれだけ経過しただろうか。
再びカタカタというタイプ音が止り、秋子の視線は部屋の天井に向けられる。
再びじっと天井を見つめる秋子。
しかし今度はにっこりと微笑んだ後、
「了承」
と小さく呟く。
そして、
「家族が増えたら…というのはさすがに気が早いわね」
と言うと、一息入れるために席を立って部屋を出ていく。
主のいなくなった部屋は三度静寂に包まれる。
ディスプレイ上の書類の日付は25日、時計は翌日を差していた。