その1 【 味な(?)新機能 】
「セリオ! 車検できるか?」
「はい、浩之さん。車検基準はデータベースに入っておりますし、だいたいの検査項目は私のセンサーで測定できますので、大丈夫だと思います」
「じゃあ、たのむよ」
オレは志保にもらった車のキーを渡した。
セリオは車を動かしたかと思うと、
「40km表示、対地速度−15%ずれ、要修正」
「光軸、右ライト、下ずれ」
「前輪、左ブレーキパッド、要交換」
「サイドスリップ、基準以内」
「チャコールキャニスタ、異常なし」
「ブローバイガス還元パイプ、異常なし」
次々とチェックをしていく。
来栖川の中央コンピュータに直結しているセリオのことだけはある。
多分、車検の項目なんだろうけど、オレには何を調べているのかさっぱりわからない。
そうやって、車を調べている最中に、ふと、セリオがオレの方に視線を向けたような気がした。
もし、そうだとしたら、彼女の瞳(?)には、「機械の事なんてわからないぞ」と置いてゆかれて、ボーっと眺めているオレの姿が映っていた事だろう。
そんな事がありながらも、着々と進めている。
車の後ろに回り込んだかと思った次の瞬間、セリオは、エンジンがかかっているのに、その華奢な指をマフラーに突っ込でいた。
その光景を目の当たりにしたオレは、唖然として眺めているだけだった。
マフラーから抜いたセリオは、
その指を口にくわえ、こ首をかしげながら、つぶやいた。
「この味なら、CO・HCガス濃度は基準以内ですね」
「は? セリオ! 今、何て言った?」
「はい 『CO・HCガス濃度は基準以内』と申し上げたのですが」
「いや、その前だ」
妙な雰囲気の沈黙…
「特に何も……」
……
……
オレの空耳だったんだろうか?
セリオの意外な一面を見た気もしたが、車検整備は難無く終わった。
その夜、来栖川電工のユーザーサービス部から、メールが届いていた。
そこには『セリオのプログラムに、雰囲気を和らげる機能を追加しました』と記されていた。
その2 マルチのおみみ
キーン、コーン、カーン、コーン。
ようやくかったるい授業が終った。クラブにでも顔を出してみるかな?
などと思いながら、廊下へ出ると、マルチが掃除をしていた。
「あ! 浩之さん、こんにちはです〜」
「おう! マルチ、元気そうだな」
マルチがあいさつしてくれる。全くロボットは思えない出来だ。
耳の所のアンテナが無ければ、人間と間違えてしまいそうだ。
「ところで、マルチ。その耳の所のアンテナ、なんでついているんだ?」
「はい、私にもよくわかりませんが、スタッフの人の話では、なんでも、格闘少女と区別するため、って聞いたのですが……」
「おい、マルチ、そのスタッフって……」
続かない……(邪道オチですいません)